[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
とモルフィネスがハンベエの案を後押しした。こうして王女軍は二つに分けられた。東へ向かう兵は元々の王女軍の内二万五千を割き、それにレンホーセンの騎馬傭兵部隊とヒューゴの特別遊撃隊を加えて進む事となった。残りは全てモルフィネス、ドルバス、ヘルデンの下ゲッソリナに帰還する事になる。『御前会議』の後、エレナがハンベエを呼び止めた。「ハンベエさん、礼を申します。兄を斬らないでいてくれて。」 二人切りなのを確認してエレナが言った。「別に礼を言ってもらう事じゃない。諸々の事情でそうなっただけだ。戦の流れからも、太子が逃げれば太子の軍はそれに付いて逃げてくれるからな。ボルマンスクに向けて追って行くが、それも付かず離れずの方針だ。下手に急追して窮鼠猫を噛むの反撃をされても面白く無いしな。」元々ゴルゾーラを斬る気は無い、と何故かエレナに言わないハンベエであった。 翌朝からハンベエの提案に従い、軍編成が行われた。正午まで掛けて編成し終えると、その日は兵士に休養を取らせた。軍医イザベラは昨日の合戦終了後からずっと負傷兵の治療看護の陣頭指揮を取っており、夕刻にようやく休息に入った。深夜、イザベラがハンベエの下を訪ねていた。ハンベエはロキと共にいた。「ハンベエ、太子軍の追討は明日出発だったね。」「ああ。」「アタシは先行して太子軍を追うよ。」「・・・・・・何で又。クービルは居るし、ボーンは居るし、危険なのは知っての事のはずだ。」「ナーザレフって奴を見張って置きたいのさ。」「ナーザレフを?」「実はどうしても気になって、エレナに背中の痣を見せてもらったんだ。」「それで。」「痣じゃなかったんだよ。何かの薬品を使って作られたものだったんだよ。まあ、刺青の一種だね。どうも、ナーザレフって奴が関係している気がするんだ。」「王女には話したのか。」「痣じゃなくて、誰かに付けられた刺青だとは教えたよ。吃驚していた。「そうか。何だったっけ、『汚れの乙女』の伝承だったか。嘘臭いと思ってたが。」「エレナの為に、ハッキリさせてやりたいんだ。」「気を付けてくれよ。ボーンは話せる奴だが、クービルはいきなり斬りに来るかも知れんからな。」「分かってるよ。」とイザベラは答えたが、ハンベエはつい最近『声』と無謀とも思える命のやり取りをしたのを直に聞いているので安心もならない。と言って、引き留める事も出来なかった。ある意味、ハンベエよりも恐ろしい力を持っているニョショウなのだ。イザベラは話し終えると、そのまま姿を消した。 翌日、つまりクロノ原で太子軍を破ってから二日目、エレナの下に分けられたボルマンスク方面軍は東に向けて、モルフィネス、ドルバス率いるゲッソリナ方面軍は西へ、それぞれ出立した。一方敗退した太子軍はその頃、ベッツギ川の渡河を終えていた。万一の事態を想定したボーンが、配下一千五百人を指揮して仮橋を設置していたのだ。仮橋は太子軍の渡河と同時に破却された。クロノ原からの後退中にも兵士の離反が続き、太子軍の総勢は一万五千人にまで減っていた。渡河を終え一旦兵士達に休息を取らせると同時に、ゴルゾーラは師団長とボーンを集め、会議を行った。ナーザレフもゴルゾーラの側に控えていた。「余の不明により、多大なる将士を失った事。詫びても戻る事では無いが、申し訳なかった。 ゴルゾーラは一同を前に頭を下げた。「殿下、勿体のうございます。我等の方こそ不甲斐なき有様、殿下の旗に泥を塗った事を命を以て償いたい思いで御座います。」
参加者は王女エレナ、総司令官ハンベエ、副司令官ドルバス、参謀総長モルフィネス、親衛隊長ヘルデン、特別遊撃隊長ヒューゴ、騎馬傭兵部隊長レンホーセン、財務担当ロキ、装飾担当パーレル、軍医イザベラ、それに侍女頭のソルティアが加わり、タゴゴロームに居るボルミスを除けば、『御前会議』の参加者総動員であった。「では、会議を始めます。総司令官ハンベエ殿の提案により、このクロノ原の地で太子軍に対し、決戦を挑む事を討議したいと思います。」 いつものようにモルフィネスが口火を切る。聞いているのかいないのか、ロキだけが食事の開始を催促するように、目の前に配膳されているスープやその他の食べ物を目を凝らして見詰めている。 翌日、王女軍の本営では『御前会議』が催された。太子軍が東方十五キロの所まで迫って来ている。それにどう対処するかの作戦会議であった。エレナはロキの様子に微笑んで匙を手に取った。「提案者より、作戦を説明願いたい。」期指結算 2021 モルフィネスは話をハンベエに振った。「この地に陣を敷けば、九分九厘太子軍は野外決戦に応じて来るだろう。今のところ、長槍の大量購入の情報は敵に知られているだろうが、こちらがドルドル鉱山の鉱夫を組み込んで十万の予備兵を用意しているかどうかについては半信半疑だろう。まして太子軍兵士の隅々までその情報が行き渡っているとはとても考えられん。そこで、今敷いている陣から東に向けての両側の山林の中に五万づつ、その兵士を埋伏させて置き、敵がこの陣まで迫って来たところで、やにわに両側の兵士に奇襲を掛けさせる。突然両側に兵が起これば、太子軍は動揺するだろうし、三方から囲まれる事になる。敵の浮き足だったところを見極めて、俺がレンホーセンの騎馬隊を突入させる。後は混乱する敵を押し切るだけさ。」ハンベエは自信たっぷりに説明した。それにしても、ドルドル鉱山の鉱夫が『御前会議』の議上に上ったのは初めての事であった。以前にはハンベエ、ドルバス、モルフィネス達の間で、まだ調練不足だとか武装が不十分だとか色々駄目出しが出ていたが、この期に及んではなり振り構ってもいられなくなったもののようだ。そう上手く行くものか。」 モルフィネスは疑問を呈した。と言っても、不安そうな顔色は見せない。いつもの氷の鉄仮面の無表情である。「戦には博打みたいなところが有るからなあ。振った賽の目がどう転ぶかはその時にならないと分からん。しかし、ここで待ち構えていれば必ず太子軍は乗って来るはずだ。向こうは十二万、こっちは十三万、後は死力を尽くすのみだ。」ハンベエは決然と言った。「ハンベエの提案に賛成じゃ。腕が鳴りおる。」ドルバスが応じた。ヘルデンも黙って肯いている。「確かに決着を着けるには又とない機会では有ります。王女殿下の御意向はいかがでしょうか。」とモルフィネスはエレナを見やった。「元より戦の事は皆さんの力をこそ頼みにしております。特に異議が無いのなら、私も共に命を賭すのみです。 エレナは唇を引き結んでそう答えた。威厳のようなものが滲み出ているのは王家の血がさせるものか。「決まりだな。」 ハンベエが締め括った。「あ、それは良いけど、モルフィネス。オイラの所にドルドル鉱山の人から千人ほど回しといてね。」エレナが匙を手にしてからずっと食べてばかりいたロキが付け加えるように言った。
レンホーセンは時にハンベエが見せる無愛想さに、妙な誤解を受けなければ良いのだが、と心配する心持ちになっていた。(いや待て、こいつは良く考えたら伯父きリーホーセンの仇じゃないか。俺は仇討ちを諦めたわけじゃないんだ。だが、今はまだ無理だ。とても仇は討てそうに無い。仇を討つのはもっともっと先の事だ。)今度と何時かは絶対来ない。人の良いレンホーセンの心は伯父の仇討ちをいつも先延ばしにしている。キーショウと入れ替わりというわけでも無かろうが、街道を西から馬を走らせてやって来た者がいた。馬は一頭、乗り手は二人。騎馬を操る兵士の背中にしがみつくように乗って来たのは言わずと知れたロキである。「ハンベエエエ。」馬の背から転がるように降りたロキは左右に首廻らせながら呼んだ。「おお、ここだ。」野営地に並ぶ天幕の一つから、ハンベエが顔を出した。コマが原のハンベエ達は太子達の軍とは違い、大規模な陣屋は造っていない。四、五人で満杯の天幕を五メートル間隔で設置して寝泊まりしている。馬は放し飼いである。それでも、online trading platform singapore 傭兵部隊員一人一人が各自愛馬としているので呼べば直ぐに騎馬隊を構成できるのだ。筋金入りの騎馬部隊の強みだ。ロキはハンベエの姿を見ると、駆けて来た。「ハンベエ、一仕事終わったんで、やって来たよお。」「仕事速えな。どこまで出来た。」 と尋ねながら、ロキに見せ付けるように左右を見回し目配せした。 勘の良いロキは、『何処に敵の間者が居るか分からないからな』と言外に含めたものと受け取って、「後は相手を待つだけ。モルフィネスに引き継いだ。」と超短切な返事をした。こんな切れっ端な言い様では、ロキの仕事を知る者以外には何の事やらさっぱり風味のわけワカメ味だろう。「・・・・・・仕事早過ぎ・・・・・・。まあ、天幕の中入って、茶でも飲むか。」改めて驚きの絶句が交じるハンベエの言葉を受けて、さっさと天幕の内にロキは潜り込んだ。 中に入り改めて、額を付き合わせ小声で話す二人である。「何々、それじゃ川の水は今も通常通り流れている形なのか。それじゃ敵は気付きようも無いな。」「凄いだろお。結果的にそうなった面も有るけどお。」「凄い凄い。で、敵に与える打撃はどのくらいが予想される。」「それは相手の出方と、堰を切るタイミングによるけど。敵が川岸に広がって一斉渡河を試みたら、全滅させられるよお。」「モルフィネスなら、敵をそう仕向けられるな。敵勢十二万には気の毒な事だ。」 軽く笑ったハンベエであったが、笑い覚めぬ間に突如慄然となった。(ロキの施した策によって一瞬の内に十二万もの命が消えるのか。)それはハンベエをして空恐ろしいものを感じさせる数字であった。無論、ヒョウホウ者として数多の人の命を奪って来たハンベエに敵への哀憐の情は無い。敵はただ滅ぼすのみである。一人も百万も変わりない。が、この策を企て講じたのはロキである。もし十万余の命が川の泥のように流され、泡(あぶく)のように消えてしまったら、ロキはどう感じるだろう。平気であろうはずがない、途方もない罪悪感に苛まれるに決まっている。今は企てを講じた事の高揚感から何も感じていないであろうが、策通りに敵が全滅した後にロキは己のやった事を振り返るだろう。そうして、その時にロキが受けるであろう索漠たる衝撃に思いが至った時、ハンベエは胸が抉られるような苦しさを覚えた。
と言っても、単なる野盗山賊の類いであるから、多くても三百少々、九千人の手下がいたという伝説の中国の大盗賊トウセキに遠く及ばぬどころか、先ごろゲッソリナ近くのバスバス平原にのさばっていたアカガネヨロイの一派にもてんで寄り付かない弱小勢力達であった。三千人の兵士達を率いて行けば、ビビって裸足で逃げ出すだろう。現に我等がロキ一行が大枚の金貨を携えて進み行くに一向に何も仕掛けて来ない。かと言って野盗達がいないわけではなく、遠巻きにチラチラと姿気配が窺われるのである。ロキいやヘルデン率いる兵士達は例によってタゴロローム以来の長槍部隊と弓部隊の半々で、蒼天の下空に向けて真っ直ぐに伸びた槍の穂先が銀色に目に痛く、又、その後方を弓を携えた弓部隊の兵士達の一糸乱れぬ歩みぶりや肩に掛けた箙(えびら)に備えられ矢の豊富さは行き交う者に一 脫髮年齡 目置かせてお釣りが来る。以前ゲッソゴロロ街道でハンベエ、イザベラが始末したハナハナ党のような連中が跳梁跋扈しつつあったのである。一度、行軍途中に脇の崖の上に百名ほどの盗賊の群れが姿を見せた事が有ったが、ヘルデン率いる王女軍の兵士達の槍の穂先が一斉にその方角に向けられ、弓が瞬時に矢をつがえて照準を定めた。猛獣の瞬発にも似たその動きに、野盗の群れは何人かが腰を抜かして尻餅をつき、皆々這うようにしてほうほうの体で逃げ散って行った。野盗仲間に噂が流れたものか、それ以降遠巻きに姿を窺う気配はしても不用心に姿を見せる者達は居なくなった。さて、これからロキが商用で訪ねるつもりのカクドームのキューテンモルガンはゲッソリナからの解雇兵達をまずパランパの町に集めたが、ロキ一行も同じ経路を辿る成り行きとなった。パランパの町で一応の補給を整えようというわけである兵士達は三々五々別れて旅籠に宿を取った。一応ゴロデリア王国最低部隊編成の伍長を入れての六人一組行動で個人行動は許可されない。これは出発前に参謀モルフィネスに厳格に指示された事であった。モルフィネスが集団行動を厳命した理由は個々の兵士に悪事を働かせない為である。例えば民衆に個人的に金品を強要させない為、例えば婦女子に対して不埒な挙に出させない為、或いは酩酊の果て乱暴狼藉を働かせない為等々。モルフィネスは悪謀の士であり、必要とあれば味方を犠牲にする事もいとわない冷血漢であるが、軍規には厳しく兵士の横暴を許さない。昔ほざいた『ゴロデリア王国の為』という言葉が果たしてモルフィネスの本心で有ったかどうかは明らかではない。だが、かの策士私の利益の為にその言葉に違背した行動を未だ見せていないのはそれなりに見事なものであった。小荷駄隊の中枢であるロキとヘルデン等ハンベエ親衛隊はゴロデリア王国の奉る太陽神を本尊とするヨン・ピエトロ寺院パランパ支部の敷地を借りて夜営を敷いた。明々と篝火の炎が風に揺れている。. ゴロデリア王国に雪はほとんど降らない。又砂漠の地でもない。夜は多少冷えると言えども、テントや寝袋でやり過ごしてこたえない程度の寒さである。
(お師匠様は、この境地を会得されていたのだろうか。)ふと、ハンベエは師のフデンに思いをやった。テッフネールの金縛りにしてやられないで済んだのも、師フデンとの修行のお陰であった。(そういえば、あのテッフネールの野郎、俺がお師匠様の弟子と知った途端、目の色変えて斬り掛かって来やがった。)フデンに関わる事である事なら、尚の事負けるわけにはいかない。ハンベエは『ヨシミツ』を斜め上段に構え、遥か東の朝焼け雲を見詰めて、唇を強く結んだ。三十分程、その構えのまま、心気を整え、耳目を澄ませた。しかし、昨日テッフネールとの闘いで生じたような感覚は湧いて来ない。劍橋英語課程價錢ハンベエは『ヨシミツ』を鞘に収め、腕組みをして右に左に歩いた。さて・・・・・・さてさてさて・・・・・・と考えては見たが、何ら救いになりそうなものは閃かない。考える事に飽きて、周りを見回すと、夜半の内に雨が有ったと見え、司令部の建物に横付けされた煙突の傘の部分が濡れており、四角錐の形をした下方の角の一つから、ぽたり、ぽたり、っと雫が落ちていた。ふとハンベエの目はその雫の動きに釘付けになった。ニュートンは林檎が木から落ちるのを見て引力に気付いたらしいが、ハンベエは、落ち始めは緩やかであるが、それが下に行くに連れ、速さを増して行く雫の動きに目を吸い寄せられてしまったようだ。引力による加速である。経験上ハンベエは物が落ちる時のそういう動きを知っていたから、別に不思議とも感じはしなかった。にも拘わらず、何故かハンベエは雫から目が離せなくなってしまった。ぽたり、ぽたりと落ちる雫を黙ってハンベエは見詰める。雫はただ上から下に落ちるだけである。何の珍しい事もない。だが、この時ハンベエは落ちて行く雫の単調な動きを何かに憑かれたように目で追い続けていた。その内に不思議な事に速度を増して落ちて行くはずの雫の動きが、ハンベエには逆に止まっているかのようにゆっくりとしたものに見え始めたのである。ハンベエは音の聞こえない、それでいて空気の動きまでもが鋭く肌に感じられ、事物の動きが異様にゆったりとした不思議な感覚の世界に入っていた。「何と無くコツが分かって来たぜ。」ハンベエは薄っすらと笑いながら呟いた。人間は後になれば、あの時どうして自分はそんなものに心を捉われたのかと、不思議に思う事があるが、この時、ハンベエは水滴の動きから新たな極意への通過点に分け入っていた。もし兵法の神様というものがいるとしたら、ハンベエはその神様に導かれていたのかも知れない。もっとも、ハンベエ本人は頑なな迄に神も仏も信じぬ男であるが。話がズレるが、ハンベエは以前自分自身が新たな力を得たと感じた事が有った。それは、イザベラの妖術に嵌まり、悪夢にうなされて、その悪夢を克服した直後の事であった。自分の体が従前に増して軽く素早く動かせるようになったと感じられた事が有ったのだ。そしてその時は、自分の動きの速さが著しく上がった事に驚いたものであった。今回得たものは又別であった。物の動きが異様に遅く感じられ(という事はハンベエの反応速度が格段に高まったという事になる)、高速の中での見切りの感覚が一段と高まったようだ。 ハンベエの感じたものが本物であるとしたら、ハンベエは又もやレベルアップした事になる。いや、この際、はっきりと書こう。ハンベエはレベルアップした。新たなる速度領域を身に付けた。数時間、ハンベエは雫の落ちるのを立ち尽くして見詰め続けた。息をしているのかも疑わしいほど静かに立ち尽くしていた。やがて、ハンベエは司令部の屋上から立ち去った。流石に飽きてしまったのかも知れない。おっと、それ以前に水滴も何時までも落ち続けるわけもないので、雫の種が尽きてしまったのだろう。