[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
「俺の側から離れるな。」ハンベエはロキにそう言うと、今度は竦み上がっている兵士達を睨み付けて、「俺がこれほど刀を抜かないなんてのは珍しい事なんだぜ。神様にでも感謝するんだな。」と吐き捨てた。それから、兵士達に外を出ろという具合に顎をしゃくった。兵士達はハンベエが斬り付けて来はしないかと警戒しながら、廊下に出た。「ステルポイジャンに今回の無礼をどう落とし前付けるのか、じっくり聞かせてもらうとするぜ。」ハンベエは兵士達を追い立てるようにして前を歩かせ、その一方でロキの手を引いて引きずるようにして歩き始めた。ハンベエ達が立ち去って暫くすると、客室の寝台の下から辺りを窺うようにしてイザベラが這い出して来た。その後に、イザベラに手を取られてエレナが続いた。「さて、ハンベエはロキとアタシはエレナと、二人二人の道行きluxury packaging manufacturersになったわけだ。アタシの側を離れないようにしておくれ。」この先に待ち受ける危難に、反って心が昂ぶるのか、イザベラは爛々と目を燃え立たせてエレナに言った。ハンベエは王宮警備隊の兵士達を脅しつけ、先に立たせてステルポイジャンのいる部屋へ向かったが、途中突然前を行く兵士達が立ち止まって拝跪した。見ると、廊下の交差する場所を取りどりの宝石を身に付け、けばけばしいほどに着飾った女人が何人かの武人を従え、丁度横切って行くところであった。「王妃様だよ。」ロキは直ぐ様兵士達に倣って拝跪すると、ハンベエの袖を引っ張った。しかし、ハンベエはヌーボーとつっ立ったまま膝を曲げようとはしなかった。ハンベエは物珍しらげに王妃の方を見ていた。(噂に聞いたモスカ夫人か、宝石や装飾品で飾り立ててやがる。意外に美人だな。妖艶な雰囲気はイザベラに一脈通じるものがあるな。バブル六世とやらも、色香に迷ったかな。おや、向こうもこっちを見てやがる。何か睨んでるぞ。傍らにいるのはガストランタじゃないか。)ハンベエ十八番の無礼不作法である。この時ハンベエは、王女エレナを無事に脱出させるために、敵の首魁であるステルポイジャンとどう渡り合おうかと忙しく思案を巡らせていた。その目的から云えば、王妃の一行等は己を目立たせぬようにして、やり過ごしてしまうのが得策である。しかしながら、ハンベエはそうしようとはしなかった。この場合、他の兵士達に倣って跪いてしまえば、王妃達はハンベエなど気にも止めないであろう。逆に、王妃に対して諸人が取っている礼を取らない場合、王妃達が感じるであろう不快感、ハンベエに対する反感、警戒心、それによってもたらされる軋轢・・・ハンベエも馬鹿ではないので、それが解らないわけでは無かった。だが、解っていながらも、それだけは譲れないぜと妙にシャチホコ張ってしまうハンベエであった。ハンベエが唯一、膝を屈する事ができる相手は師のフデンだけであった。それ以外の人間には何があろうとも膝を折る事など絶対せぬぞ、と強情にも決め込んでいた。今現在の最優先事項から考えれば、明らかに無意味・・・と云うより、不利益になりかねない行動である。全く、他の人間から見れば、バッカジャナカロウカと云う処である。執着心の薄いとぼけた若者のように見えながら、この一点についてだけは譲らない、全世界を向こうに回しても譲りそうにないハンベエであった。此処で王妃達と悶着を起こして、斬り合いになるような事があろうとも少しも頓着しそうにない雰囲気である。「あの無礼な男は何者じゃ。」王妃モスカは不快そうに眉をひそめながら傍らのガストランタに小声で尋ねた。さて、知らぬ顔ですな。しかし王妃、今はその事より、ステルポイジャン将軍に会って今後の事を打合せる方が急がれます。あの無礼者の事は後で調べて、それなりの処分をいたしましょう。」
ハンベエは小さく笑って言った。人を斬らなかった事を喜ぶロキへの返事なのに、妙に会話が噛み合わないハンベエである。恐らく念頭に、誰にも明かしていない千人斬りがあるから、こんな返事になってしまうのだろう。「ええー、じゃあハンベエは、あいつらが又絡んで来たら、今度は斬っちゃうつもりなのお?」「前にも言ったが、ヒョウホウ者だからな。」そう言いながら、つるりと顔を撫でて見せるハンベエであった。そのハンベエをロキはちょっぴり複雑な表情で見ていた。今回は騒動を避けたハンベエではあるが、ルノーとの間にはまだ一悶着有りそうであった。 割り当てられた王宮の客間にハンベエとロキは戻った。イザベラが所在無さげに椅子に腰掛け、白磁のカップで茶を飲んでいた。色合いから相当苦そうに見える。眠れなくなる事請け合いといった代物である。冷凍卵子「いい湯だったぜ。貸し切りだったから、イザベラもくれば良かったのに。」「貸し切り?まさかハンベエ、このあたしと一緒に入るつもりだったのかい。」戻る早々、普段に似ず愛想良く話し掛けたハンベエを、気のない様子で見やってイザベラが答えた。「あ、そうか一緒はまずいか。・・・しかし、お互い隠し事無しで打ち解けるいいチャンスだったのにな。」ハンベエは苦笑いしながら言った。「打ち解ける方法なら、他にもあるだろう。あたしはいつでもカモンて言ってるのに、何だかんだ理由を付けて先延ばしにしているのはアンタだろう。」「・・・まあ、そういう方法もあるな。・・・」「エレナが心配なので、今は気分じゃないけどね。」イザベラは王女を『エレナ』と呼んだ。おやおや、知らぬ間に随分と親密になったものだ。ハンベエ達のいない間にヒソヒソ話でもしていたのだろうか。ハンベエはその変化に気付いてイザベラの目を深く見つめた。「ここだけの話だけど、バブル六世はもう相当ヤバイらしい。今、エレナが見舞いに行っている。」イザベラは声を潜めて言った。「ええー、そうなのお。」ロキが声を潜めて驚いた。いつものすっとんきょうな胴間声もイザベラの様子に押さえられている。「悪い予感がするんだよ。」イザベラは芯から心配そうに言った。ハンベエは王女を心の底から心配しているイザベラを見て、はてさてと首を捻った。元々、イザベラは冷酷非情で冷笑的とも云える性格だったように思える。ハナハナ党退治で見せた悪漢の貫禄は、ハンベエをして寒気を覚えさせたほどである。それが、今回の王女への気遣いを見ていると全く別の人間のように思える。(人間の性格は変わるものなのかな。この俺は、性格変わったんじゃないかと言われ続けているが、イザベラの奴も最初出会った時とは、何か印象が違って来たなあ。それとも、俺はイザベラの一面しか見ていないのか。)ハンベエはぼんやりと、そんな事を考えていた。「悪い予感って?」ロキが尋ねた。王女親衛隊のロキとしては、聞き逃すわけには行かないイザベラの一言である。「一つはエレナの性格さ。繊細な質だから、父親が死んだりしたら、更に気落ちするだろうしね。でもそれより、バブル六世が死んだら、いよいよラシャレーとステルポイジャンの殺し合いが始まるって事さ。」「やっぱり始まっちゃうのお?」「王宮警備隊の兵士の動きが妙に慌ただしいんだよね。」イザベラが意味深に言った。 こいつ、何処まで王家の事情に通じているのか?と、ハンベエは訝しげにイザベラを見た。「良く見ているなあ。それとも、得意の占いか?」ハンベエは薄ら笑いを浮かべて言った。「ハンベエ、言い方が嫌みっぽいよう。王女様を心配しているイザベラに失礼だよお。大体、ハンベエは心配じゃないのお?」ロキがハンベエを咎めて言った。 あららら、と意外にもイザベラの肩を持ったロキの発言にハンベエは苦笑気味である。ロキはイザベラが嫌いだったはずじゃなかったっけ。おかしなものだと思いつつも、この若者は悪びれる事もなく、ロキに向かって言った。「誰を?国王の命についてなら、人間はどうせ死ぬ事に決まっているし、顔も見た事ない奴の生き死になんざ、どうとも思わないぜ。第一、俺の命じゃねえ。」心ないハンベエの言葉にロキははーっとため息を吐くと、
「そう言えばパーレル書いてた書いてた。そんなところから、バレちゃったんだあ。天知る地知る我も知る、遂に悪事は露見したってわけなんだあ。ふーん、パーレルの絵からねえ。その絵、ちょっと見たいよお。」言葉軽やかに喋るロキであるが、表情はムスっとしたままだ。日頃快活に笑うロキにしては妙に不自然な雰囲気であった。実はボーンと一緒にゲッソリナに旅立った時から、ずっとこの様子なのであった。「いや、絵はハンベエに取り上げられた。きっと処分されただろうな。見せられなくて悪い。」ボーンはバツが悪そうに頭を掻いた。「えー、大事な証拠物件じゃない、いいのお? 確か、イザベラを捕まえるのもボーンさんの仕事の一つだったよねえ。」「おいおい、イザベラっていうのはハンベエと互角に渡り合い、うちのお頭、サイレント・キッチンの頭目も金融科技香港がした化け物だよ。この俺に捕まえに行けっていうのか。何を俺に期待してるんだ。」「えー・・・うーん、でもハンベエほどじゃないけど、ボーンさんもかなり強いじゃん。第一ちゃんと仕事しないとクビになっちゃうんじゃないのお?」とロキは言った。ここに来るまで、急ぎに急いで早や三日、既に何度か追い剥ぎや野盗の類に出くわしている。ボーンという男はできるだけ、それと関わらないように避けて通るのだが、黙って通してくれない奴もいた。そういう時は、仕方なしに闘うのだが、ボーンは鉄拳と足刀で簡単に相手をぶちのめしてしまう。ハンベエとは大分違うなあ、とロキは思った。ボーンは腰に刃渡り40センチほどの短めの剣を吊しているのだが、抜かないのである。素手でも、楽にならず者達をぶちのめせるほど腕が立つという事なのだが、相手が敵意を示したら容赦なく斬って捨てるハンベエに比べると、その違いが鮮やかに分かるのである。ともあれ、ボーンが腕利きである事を、ロキはその目で見てはっきり知っていた。「ハナハナ山でのイザベラの活躍を聞いたけど、その話で考えたら、イザベラっていうのは恐ろしい女だぜ。王女様も相当剣の腕が立つという話だが、襲われた時に、ハンベエが居合わせなかったら、どうなった事やら。俺も一応命は惜しい。出来るだけ関わりたくないものだぜ。」ボーンはロキに苦笑混じりに言った。「でもイザベラ捕まえるのはボーンさんの仕事でしょう。いいのお、仕事の選り好みして? バレたら、クビになっちゃうんじゃないのないのお?」「その事だよ。誰にも言わないでくれよな。特に、宰相に面会しても、その話だけは絶対にしないでくれよなあ。」どうやら、ボーンはこの口止めをするためにロキにハナハナ山の話を始めたようだった。ハンベエがロキにその後のボーンとのやり取りを話していなかったのは意外であったが、ボーンは不必要な事を喋らないハンベエに改めて安心もした。「いいよお。何たってオイラとハンベエとボーンさんは仲良し三人組だからねえ。絶対に喋らないよお。」「本当に頼むぜ。ところで、ロキ、今回旅に出てから、ちっとも笑わないけど、何かあるのか?無愛想で眠たそうな顔で、まるでハンベエみたいだぞ。」「ハンベエみたい。」ロキは急に目を輝かせて言った。「・・・喜ぶ事か?」「いやあ、今回オイラ、ハンベエから『俺に代わって』って言われただろう。だから、一生懸命ハンベエの真似をしてたんだ。ハンベエと言ったら、何と言っても無愛想、ぶっきらぼう、オイラ形から入るタイプなんだ。やっぱりハンベエってこんな感じなんだ。」「・・・いやいや、意味取り違えてるし、真似る必要ないし。」「あははは、ボーンさんもやっぱりそう思う?」「やっと笑ったなあ。しかし、あの無愛想男も、たまに人懐っこく笑うぞ。何はともあれ、そこは真似しなくていいと思うぜ。旅に出てからずっとブスッとしたままだったから、俺がモルフィネスの部下を消した事を怒ってるのかと思った。」「・・・その事は賛成は出来ないけど、仕方ない事だと思ってるよお。気が咎める?」ロキはちょっと眉をひそめて言った。「いや悪いが、気は咎めない。俺達はそういう世界で生きている。あいつは殺されるだけの事をやった。俺は俺で生きてかなきゃならんのでな。それより、ハンベエの真似はもう止めてくれ、ロキはロキだからこそいいんだから。ゲッソリナに行ったら、王女様にも会うんだろう? 無愛想な顔のロキを見たら、びっくりして心配するぜ。」「エヘヘ、分かったよお。」ハナハナ山を過ぎて、さらに2日後、急ぎに急いだ強行軍でロキとボーンはゲッソリナに入った。
真っ赤に染め上げた顔を左右に振ると、顔を上げた栄太郎の口付けがまた紫音をからめとる。満足に息も出来ないまま、栄太郎はあいた片手で紫音の着物を脱がせた。「…や…え…たろ…さ……んぅ…っ」「素直じゃないね。君の体は嫌がってないよ?それに…僕の過去も、未来も、知っているのなら…」僕は狡い。こう言ってしまえばこのコが気にするのをわかっていて、口にしてる。でも、好いた女子が僕の手で初めて乱れ、上気した顔を見て、止められようものか。はぁ…全く、買基金 香港ぱり狂ってる。こんな風に無理に君を手に入れてるのに、君に初めて近付ける男なのだと思うだけで、こんなにも幸せだなんて。自嘲しながら、栄太郎は紫音の唇を親指でなぞる。もはや二人の間を分かつものは何もない。汗でべたついた体がぴたりと吸い付き、離れる事を拒んでいるように思えた。「大丈夫だから…力抜いて?」無理にされている筈の行為。なのに、その優しい声と微笑みに、ぎゅうと胸が締め付けられる。紫音はもう抵抗する気はない。むしろ受け入れようとしていた。自分でもわからない。過去も未来も、死ぬ時さえも知っているから許すのか?ただ、こうして自分に触れている手は優しくて、口づけをされた場所はじわりと熱を帯びていて、もっと近付きたい………わからないまま芽生えた気持ちを抑える術はない。少しの恐怖を飲み込んで、紫音はいつの間にか解放されていた手を栄太郎の頬に伸ばした。そうして伸びてきた紫音の手に、栄太郎はわずかに目を見開く。ほんの一瞬、すごく嬉しそうに笑ったのを、紫音は知らない。降ってきた濃厚な口づけに、紫音はふわふわとした気持ちになっていたから。うっすらと桃色に染まった紫音の体を月明かりに照らし、栄太郎は自身の猛りを宛がう。びくりと強張る紫音にまた深い口づけを交わし、ふっと抜けたところでゆっくりと体を沈めた。「………ふ…ぅっ」「大丈夫…しばらく、このままで…」例えようのない幸福な気持ちに、栄太郎はうっすらと涙を浮かべる。華奢な体を壊さないように、けれど逃がさないように、絡めるように抱きしめる。ふと、目に入ったのは以前久坂に受けたという傷。それを眉を寄せて悲しげに見た後、優しく口づけた。
―――――
――――――――
―――――――――――
すやすやと眠る紫音を、羽織りだけ肩にかけた栄太郎が優しく見つめる。汗で頬にはりついた髪を、人差し指でそっと耳にかけると、その頬に口づけた。だが、襖越しに聞こえた声に栄太郎の雰囲気は一変する。「―――…何?」「は。古高が捕縛されました」報告に、栄太郎の目にスゥッと冷たい光が宿る。
「ふぅん…こんな朝っぱらから、奴らもよくやるね」奴らとは、言わずもがな、新撰組である。緩やかに立ち上がり、着物を着ると、見計らったように襖がわずかに開いた。「無粋な男は嫌われるよ?」「元より好かれた覚えがありませぬゆえ」「………あぁそう。本当につまらない男だね、君は」入ってきたのは、町人風の男。栄太郎に何故か忠誠を近い、密偵や護衛、暗殺などを一手に背負う腹心。名を森戸一斎(モリトイッサイ)という。彼は名の廃れた忍の一族と言い、事実、その身体能力は紫音のそれとよく似ていた。能面のような特徴のない無表情の顔。
険悪な雰囲気のまま食事を続けるのも嫌だったため、話題を変えると母の機嫌も少し直りどうにか大きなケンカに発展せずに済んだ。食事の後は母の買い物に付き合い、帰る頃には既に午後六時を過ぎていた。出来るだけ早く帰ろうと思っていたのに、六時間も母に付き合った自分を心の中で褒めた。「じゃあ、帰るわね。蘭、不規則な生活にならないように気を付けなさいよ」「うん、わかってる」「外食ばかりしないで、たまには自炊しなさい」「はいはい」「今度家に帰ってくるときまでに、彼氏を作って連れてきてちょうだいね」「……それは約束出来ないけど、頑張るわ」札幌駅で母と別れた後、私は真っ直ぐ家に帰らずにすすきの方面へ向かった。体力的にも精神的にも疲れた日は、酒を飲むに限る。この日は一人で飲みたい気分だったため、いつも一人で飲みたいときに立ち寄る店に足を運んだ。投資基金、いらっしゃい」「ビールと枝豆、それからチャンジャも」この立呑屋は、社会人になってからずっと一人で通っているので、店員とは当然顔見知りだ。私はいつもの定位置を陣取り、ふっと息を吐いた。今日一日の疲れがどっと押し寄せる。すると、左隣から私を見つめる視線を感じた。ふと隣を見ると、そこには見覚えのある男がいた。「あ、やっぱり。この間、コンビニで七瀬さんと一緒にいた方ですよね」彼はにこやかに微笑み、気さくに声を掛けてきた。「あぁ、すみません。僕のこと、覚えてないですよね」「……いえ、覚えてますよ。久我さんでしたよね?」私が依織に好意を寄せている男を忘れるはずがない。普段なら作り笑いで対応するところだけれど、この日は母とやり合ったことで疲れていたせいもあり、笑顔なんて作る気力はなかった。私は真顔のまま、受け答えた。「こんな所で会うなんて偶然ですね。桜崎さんはよくここに来るんですか?」「え、あぁ、まぁ……そうですね。居心地いいんで」久我さんが躊躇うことなく私の名前を口にしたことに、少し驚いた。「僕もたまに来るんですよ。一人で飲みたいとき限定ですけどね」「それ、わかります」彼はビールを飲みながら、牛すじの煮込みを食べている。美味しそうに見えたため、私もすかさず同じものを注文した。「この間、七瀬さんと連絡先交換したんですよ」「……へぇ、そうなんですか」依織からそんな話は聞かされていない。私の知らないところで、二人の関係が少しずつ進展していることに、私は内心苛立ちを覚えた。「偶然外で会って、一緒に食事したんです。その日に連絡先交換したんですけど、ちょっと強引過ぎたかなと思って。今、反省中です」「依織は強引な人苦手だから、もう嫌われてるんじゃないですかね」つい棘のある口調になってしまった。何だろう、無性にこの男に腹が立って仕方ない。本気で依織を口説き落とせると思っているのだろうか。この胡散臭い笑顔も鼻につく。「久我さんのその笑顔って、営業スマイルですか?」「え?」「いや、何でもないです。とにかく、無理に私に話し掛けてくれなくて結構ですから。一人で飲みたいんで」シャットダウンした、つもりだった。もう私には関わらないでほしいという意思表示をしたはずだったのに、彼には伝わらなかった。「……桜崎さんって、結構鋭いんですね」「あの、私が言ったこと聞いてました?」「でも、実は僕も結構鋭い方なんですよ。特に、他人の気持ちには人一倍敏感で」「……」何か、面倒くさくなってきた。