と言っても、単なる野盗山賊の類いであるから、多くても三百少々、九千人の手下がいたという伝説の中国の大盗賊トウセキに遠く及ばぬどころか、先ごろゲッソリナ近くのバスバス平原にのさばっていたアカガネヨロイの一派にもてんで寄り付かない弱小勢力達であった。三千人の兵士達を率いて行けば、ビビって裸足で逃げ出すだろう。現に我等がロキ一行が大枚の金貨を携えて進み行くに一向に何も仕掛けて来ない。かと言って野盗達がいないわけではなく、遠巻きにチラチラと姿気配が窺われるのである。ロキいやヘルデン率いる兵士達は例によってタゴロローム以来の長槍部隊と弓部隊の半々で、蒼天の下空に向けて真っ直ぐに伸びた槍の穂先が銀色に目に痛く、又、その後方を弓を携えた弓部隊の兵士達の一糸乱れぬ歩みぶりや肩に掛けた箙(えびら)に備えられ矢の豊富さは行き交う者に一 脫髮年齡 目置かせてお釣りが来る。以前ゲッソゴロロ街道でハンベエ、イザベラが始末したハナハナ党のような連中が跳梁跋扈しつつあったのである。一度、行軍途中に脇の崖の上に百名ほどの盗賊の群れが姿を見せた事が有ったが、ヘルデン率いる王女軍の兵士達の槍の穂先が一斉にその方角に向けられ、弓が瞬時に矢をつがえて照準を定めた。猛獣の瞬発にも似たその動きに、野盗の群れは何人かが腰を抜かして尻餅をつき、皆々這うようにしてほうほうの体で逃げ散って行った。野盗仲間に噂が流れたものか、それ以降遠巻きに姿を窺う気配はしても不用心に姿を見せる者達は居なくなった。さて、これからロキが商用で訪ねるつもりのカクドームのキューテンモルガンはゲッソリナからの解雇兵達をまずパランパの町に集めたが、ロキ一行も同じ経路を辿る成り行きとなった。パランパの町で一応の補給を整えようというわけである兵士達は三々五々別れて旅籠に宿を取った。一応ゴロデリア王国最低部隊編成の伍長を入れての六人一組行動で個人行動は許可されない。これは出発前に参謀モルフィネスに厳格に指示された事であった。モルフィネスが集団行動を厳命した理由は個々の兵士に悪事を働かせない為である。例えば民衆に個人的に金品を強要させない為、例えば婦女子に対して不埒な挙に出させない為、或いは酩酊の果て乱暴狼藉を働かせない為等々。モルフィネスは悪謀の士であり、必要とあれば味方を犠牲にする事もいとわない冷血漢であるが、軍規には厳しく兵士の横暴を許さない。昔ほざいた『ゴロデリア王国の為』という言葉が果たしてモルフィネスの本心で有ったかどうかは明らかではない。だが、かの策士私の利益の為にその言葉に違背した行動を未だ見せていないのはそれなりに見事なものであった。小荷駄隊の中枢であるロキとヘルデン等ハンベエ親衛隊はゴロデリア王国の奉る太陽神を本尊とするヨン・ピエトロ寺院パランパ支部の敷地を借りて夜営を敷いた。明々と篝火の炎が風に揺れている。. ゴロデリア王国に雪はほとんど降らない。又砂漠の地でもない。夜は多少冷えると言えども、テントや寝袋でやり過ごしてこたえない程度の寒さである。