参加者は王女エレナ、総司令官ハンベエ、副司令官ドルバス、参謀総長モルフィネス、親衛隊長ヘルデン、特別遊撃隊長ヒューゴ、騎馬傭兵部隊長レンホーセン、財務担当ロキ、装飾担当パーレル、軍医イザベラ、それに侍女頭のソルティアが加わり、タゴゴロームに居るボルミスを除けば、『御前会議』の参加者総動員であった。「では、会議を始めます。総司令官ハンベエ殿の提案により、このクロノ原の地で太子軍に対し、決戦を挑む事を討議したいと思います。」 いつものようにモルフィネスが口火を切る。聞いているのかいないのか、ロキだけが食事の開始を催促するように、目の前に配膳されているスープやその他の食べ物を目を凝らして見詰めている。 翌日、王女軍の本営では『御前会議』が催された。太子軍が東方十五キロの所まで迫って来ている。それにどう対処するかの作戦会議であった。エレナはロキの様子に微笑んで匙を手に取った。「提案者より、作戦を説明願いたい。」期指結算 2021 モルフィネスは話をハンベエに振った。「この地に陣を敷けば、九分九厘太子軍は野外決戦に応じて来るだろう。今のところ、長槍の大量購入の情報は敵に知られているだろうが、こちらがドルドル鉱山の鉱夫を組み込んで十万の予備兵を用意しているかどうかについては半信半疑だろう。まして太子軍兵士の隅々までその情報が行き渡っているとはとても考えられん。そこで、今敷いている陣から東に向けての両側の山林の中に五万づつ、その兵士を埋伏させて置き、敵がこの陣まで迫って来たところで、やにわに両側の兵士に奇襲を掛けさせる。突然両側に兵が起これば、太子軍は動揺するだろうし、三方から囲まれる事になる。敵の浮き足だったところを見極めて、俺がレンホーセンの騎馬隊を突入させる。後は混乱する敵を押し切るだけさ。」ハンベエは自信たっぷりに説明した。それにしても、ドルドル鉱山の鉱夫が『御前会議』の議上に上ったのは初めての事であった。以前にはハンベエ、ドルバス、モルフィネス達の間で、まだ調練不足だとか武装が不十分だとか色々駄目出しが出ていたが、この期に及んではなり振り構ってもいられなくなったもののようだ。そう上手く行くものか。」 モルフィネスは疑問を呈した。と言っても、不安そうな顔色は見せない。いつもの氷の鉄仮面の無表情である。「戦には博打みたいなところが有るからなあ。振った賽の目がどう転ぶかはその時にならないと分からん。しかし、ここで待ち構えていれば必ず太子軍は乗って来るはずだ。向こうは十二万、こっちは十三万、後は死力を尽くすのみだ。」ハンベエは決然と言った。「ハンベエの提案に賛成じゃ。腕が鳴りおる。」ドルバスが応じた。ヘルデンも黙って肯いている。「確かに決着を着けるには又とない機会では有ります。王女殿下の御意向はいかがでしょうか。」とモルフィネスはエレナを見やった。「元より戦の事は皆さんの力をこそ頼みにしております。特に異議が無いのなら、私も共に命を賭すのみです。 エレナは唇を引き結んでそう答えた。威厳のようなものが滲み出ているのは王家の血がさせるものか。「決まりだな。」 ハンベエが締め括った。「あ、それは良いけど、モルフィネス。オイラの所にドルドル鉱山の人から千人ほど回しといてね。」エレナが匙を手にしてからずっと食べてばかりいたロキが付け加えるように言った。