一方、濃姫の御座所の寝室では
「さぁ、どうぞお気持ちをお楽になさって下さいませ。すぐに済みまする故」
「………」
「何卒 暫くのご辛抱を」
今まさに、お菜津が密かに手配した医師によって、濃姫の懐妊の有無を明らかにする診察が行われていた。
姫が横たわる褥(しとね)の周りには目隠し代わりの几帳が置かれ、侍女たちはそれを、次の間から心配そうな面持ちで見つめている。
特に三保野などは、火が出るかと思われるほど激しく両手を擦り合わせながら
「どうか…姫様に吾子を……姫様に吾子を…」botox香港
と念仏のように呟きながら、必死の形相で祈りを捧げていた。
暫くして、スッと几帳が横にずれ、医師が顔を出すと
「終わりましたか!? それで姫様は!姫様は如何(いか)に!お見立ての程は!?」
三保野は医師に近寄りながら、興奮気味に訊ねた。
すると医師は生真面目な表情で、次の間の侍女たちに軽く目をやると
「申し訳ありませぬが、大切なお話をせねばなりませぬ故、他のお付きの方々には一旦お下がり願いたいのですが、よろしゅうございますか?」
眉一つ動かさず、三保野に告げた。
「…え…ええ。それは勿論。 皆々、直ちに下がるのじゃ!」
三保野が命じると、侍女は「そんな…」「ご懐妊は…」「お見立ては…」と、
不服そうに小言を漏らしながら、渋々といった感じに次の間から出て行った。
侍女たちがいなくなると、三保野は慌てて周りの几帳を四隅に片付け、
褥からゆっくりと上半身を起こしてゆく濃姫の傍らに、居住まいを正して控えた。
「……それで、姫様の…、ご診察の結果は?」
三保野は医師と向き合い、恐る恐る訊ねた。
医師は目の前の畳の上に、双の手を静かにつかえると
「おめでとうございまする──。ご懐妊になされて、三月が経っているものと思われまする」
俄に明るい声で告げた。
濃姫は感動と驚きに目を見張り、三保野はその満面を笑い皺でいっぱいにする。
「ま、まことにございましょうな!?姫様は間違いのう、ご懐妊を!?」
「違(たが)いございませぬ。御慶事、心よりお祝いを申し上げまする」
医師が端然と頭を下げると、三保野は感動に身を震わせ
「姫様!わ、私、何と申し上げたら良いのやら──」
「三保野…」
「まことに、まことにおめでとう存じまする! このような嬉しきこと、私、この尾張に来て初めてでございます」
とびきりの笑顔で、姫の懐妊を祝福した。
濃姫も幸福そうな表情を浮かべながら、自身の腹を優しく撫でた。
『 ようやっと、ようやっとここに殿の御子が──。突として夢が現(うつつ)になるとは、まことに信じられぬ 』
喜びに胸を高鳴らせながら、濃姫はその端麗な面差しに溢れんばかりの笑みを湛えた。
「ただし、御子が恙無(つつがな)くお産まれになることは、極めて困難やも知れませぬが」
ふいに医師の口から漏れた言葉が、姫の顔から瞬時に笑顔を奪い取った。
三保野も目を瞬かせながら「え?」と、苦しそうな表情を浮かべる医師を見やった。
「困難とは──、それはいったいどういう意味にございますか?」
「…それは…」
言い辛そうに口をつぐむ医師を見て、濃姫は俄に顔を強張らせると
「教えてたもれ。…もしや私の身体に、何か障りでもあるのですか…?」
やや動揺気味に声を震わせながら訊ねた。