「俺の側から離れるな。」ハンベエはロキにそう言うと、今度は竦み上がっている兵士達を睨み付けて、「俺がこれほど刀を抜かないなんてのは珍しい事なんだぜ。神様にでも感謝するんだな。」と吐き捨てた。それから、兵士達に外を出ろという具合に顎をしゃくった。兵士達はハンベエが斬り付けて来はしないかと警戒しながら、廊下に出た。「ステルポイジャンに今回の無礼をどう落とし前付けるのか、じっくり聞かせてもらうとするぜ。」ハンベエは兵士達を追い立てるようにして前を歩かせ、その一方でロキの手を引いて引きずるようにして歩き始めた。ハンベエ達が立ち去って暫くすると、客室の寝台の下から辺りを窺うようにしてイザベラが這い出して来た。その後に、イザベラに手を取られてエレナが続いた。「さて、ハンベエはロキとアタシはエレナと、二人二人の道行きluxury packaging manufacturersになったわけだ。アタシの側を離れないようにしておくれ。」この先に待ち受ける危難に、反って心が昂ぶるのか、イザベラは爛々と目を燃え立たせてエレナに言った。ハンベエは王宮警備隊の兵士達を脅しつけ、先に立たせてステルポイジャンのいる部屋へ向かったが、途中突然前を行く兵士達が立ち止まって拝跪した。見ると、廊下の交差する場所を取りどりの宝石を身に付け、けばけばしいほどに着飾った女人が何人かの武人を従え、丁度横切って行くところであった。「王妃様だよ。」ロキは直ぐ様兵士達に倣って拝跪すると、ハンベエの袖を引っ張った。しかし、ハンベエはヌーボーとつっ立ったまま膝を曲げようとはしなかった。ハンベエは物珍しらげに王妃の方を見ていた。(噂に聞いたモスカ夫人か、宝石や装飾品で飾り立ててやがる。意外に美人だな。妖艶な雰囲気はイザベラに一脈通じるものがあるな。バブル六世とやらも、色香に迷ったかな。おや、向こうもこっちを見てやがる。何か睨んでるぞ。傍らにいるのはガストランタじゃないか。)ハンベエ十八番の無礼不作法である。この時ハンベエは、王女エレナを無事に脱出させるために、敵の首魁であるステルポイジャンとどう渡り合おうかと忙しく思案を巡らせていた。その目的から云えば、王妃の一行等は己を目立たせぬようにして、やり過ごしてしまうのが得策である。しかしながら、ハンベエはそうしようとはしなかった。この場合、他の兵士達に倣って跪いてしまえば、王妃達はハンベエなど気にも止めないであろう。逆に、王妃に対して諸人が取っている礼を取らない場合、王妃達が感じるであろう不快感、ハンベエに対する反感、警戒心、それによってもたらされる軋轢・・・ハンベエも馬鹿ではないので、それが解らないわけでは無かった。だが、解っていながらも、それだけは譲れないぜと妙にシャチホコ張ってしまうハンベエであった。ハンベエが唯一、膝を屈する事ができる相手は師のフデンだけであった。それ以外の人間には何があろうとも膝を折る事など絶対せぬぞ、と強情にも決め込んでいた。今現在の最優先事項から考えれば、明らかに無意味・・・と云うより、不利益になりかねない行動である。全く、他の人間から見れば、バッカジャナカロウカと云う処である。執着心の薄いとぼけた若者のように見えながら、この一点についてだけは譲らない、全世界を向こうに回しても譲りそうにないハンベエであった。此処で王妃達と悶着を起こして、斬り合いになるような事があろうとも少しも頓着しそうにない雰囲気である。「あの無礼な男は何者じゃ。」王妃モスカは不快そうに眉をひそめながら傍らのガストランタに小声で尋ねた。さて、知らぬ顔ですな。しかし王妃、今はその事より、ステルポイジャン将軍に会って今後の事を打合せる方が急がれます。あの無礼者の事は後で調べて、それなりの処分をいたしましょう。」