「そう言えばパーレル書いてた書いてた。そんなところから、バレちゃったんだあ。天知る地知る我も知る、遂に悪事は露見したってわけなんだあ。ふーん、パーレルの絵からねえ。その絵、ちょっと見たいよお。」言葉軽やかに喋るロキであるが、表情はムスっとしたままだ。日頃快活に笑うロキにしては妙に不自然な雰囲気であった。実はボーンと一緒にゲッソリナに旅立った時から、ずっとこの様子なのであった。「いや、絵はハンベエに取り上げられた。きっと処分されただろうな。見せられなくて悪い。」ボーンはバツが悪そうに頭を掻いた。「えー、大事な証拠物件じゃない、いいのお? 確か、イザベラを捕まえるのもボーンさんの仕事の一つだったよねえ。」「おいおい、イザベラっていうのはハンベエと互角に渡り合い、うちのお頭、サイレント・キッチンの頭目も金融科技香港がした化け物だよ。この俺に捕まえに行けっていうのか。何を俺に期待してるんだ。」「えー・・・うーん、でもハンベエほどじゃないけど、ボーンさんもかなり強いじゃん。第一ちゃんと仕事しないとクビになっちゃうんじゃないのお?」とロキは言った。ここに来るまで、急ぎに急いで早や三日、既に何度か追い剥ぎや野盗の類に出くわしている。ボーンという男はできるだけ、それと関わらないように避けて通るのだが、黙って通してくれない奴もいた。そういう時は、仕方なしに闘うのだが、ボーンは鉄拳と足刀で簡単に相手をぶちのめしてしまう。ハンベエとは大分違うなあ、とロキは思った。ボーンは腰に刃渡り40センチほどの短めの剣を吊しているのだが、抜かないのである。素手でも、楽にならず者達をぶちのめせるほど腕が立つという事なのだが、相手が敵意を示したら容赦なく斬って捨てるハンベエに比べると、その違いが鮮やかに分かるのである。ともあれ、ボーンが腕利きである事を、ロキはその目で見てはっきり知っていた。「ハナハナ山でのイザベラの活躍を聞いたけど、その話で考えたら、イザベラっていうのは恐ろしい女だぜ。王女様も相当剣の腕が立つという話だが、襲われた時に、ハンベエが居合わせなかったら、どうなった事やら。俺も一応命は惜しい。出来るだけ関わりたくないものだぜ。」ボーンはロキに苦笑混じりに言った。「でもイザベラ捕まえるのはボーンさんの仕事でしょう。いいのお、仕事の選り好みして? バレたら、クビになっちゃうんじゃないのないのお?」「その事だよ。誰にも言わないでくれよな。特に、宰相に面会しても、その話だけは絶対にしないでくれよなあ。」どうやら、ボーンはこの口止めをするためにロキにハナハナ山の話を始めたようだった。ハンベエがロキにその後のボーンとのやり取りを話していなかったのは意外であったが、ボーンは不必要な事を喋らないハンベエに改めて安心もした。「いいよお。何たってオイラとハンベエとボーンさんは仲良し三人組だからねえ。絶対に喋らないよお。」「本当に頼むぜ。ところで、ロキ、今回旅に出てから、ちっとも笑わないけど、何かあるのか?無愛想で眠たそうな顔で、まるでハンベエみたいだぞ。」「ハンベエみたい。」ロキは急に目を輝かせて言った。「・・・喜ぶ事か?」「いやあ、今回オイラ、ハンベエから『俺に代わって』って言われただろう。だから、一生懸命ハンベエの真似をしてたんだ。ハンベエと言ったら、何と言っても無愛想、ぶっきらぼう、オイラ形から入るタイプなんだ。やっぱりハンベエってこんな感じなんだ。」「・・・いやいや、意味取り違えてるし、真似る必要ないし。」「あははは、ボーンさんもやっぱりそう思う?」「やっと笑ったなあ。しかし、あの無愛想男も、たまに人懐っこく笑うぞ。何はともあれ、そこは真似しなくていいと思うぜ。旅に出てからずっとブスッとしたままだったから、俺がモルフィネスの部下を消した事を怒ってるのかと思った。」「・・・その事は賛成は出来ないけど、仕方ない事だと思ってるよお。気が咎める?」ロキはちょっと眉をひそめて言った。「いや悪いが、気は咎めない。俺達はそういう世界で生きている。あいつは殺されるだけの事をやった。俺は俺で生きてかなきゃならんのでな。それより、ハンベエの真似はもう止めてくれ、ロキはロキだからこそいいんだから。ゲッソリナに行ったら、王女様にも会うんだろう? 無愛想な顔のロキを見たら、びっくりして心配するぜ。」「エヘヘ、分かったよお。」ハナハナ山を過ぎて、さらに2日後、急ぎに急いだ強行軍でロキとボーンはゲッソリナに入った。