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険悪な雰囲気のまま食事を続けるのも嫌だったため

険悪な雰囲気のまま食事を続けるのも嫌だったため、話題を変えると母の機嫌も少し直りどうにか大きなケンカに発展せずに済んだ。食事の後は母の買い物に付き合い、帰る頃には既に午後六時を過ぎていた。出来るだけ早く帰ろうと思っていたのに、六時間も母に付き合った自分を心の中で褒めた。「じゃあ、帰るわね。蘭、不規則な生活にならないように気を付けなさいよ」「うん、わかってる」「外食ばかりしないで、たまには自炊しなさい」「はいはい」「今度家に帰ってくるときまでに、彼氏を作って連れてきてちょうだいね」「……それは約束出来ないけど、頑張るわ」札幌駅で母と別れた後、私は真っ直ぐ家に帰らずにすすきの方面へ向かった。体力的にも精神的にも疲れた日は、酒を飲むに限る。この日は一人で飲みたい気分だったため、いつも一人で飲みたいときに立ち寄る店に足を運んだ。投資基金、いらっしゃい」「ビールと枝豆、それからチャンジャも」この立呑屋は、社会人になってからずっと一人で通っているので、店員とは当然顔見知りだ。私はいつもの定位置を陣取り、ふっと息を吐いた。今日一日の疲れがどっと押し寄せる。すると、左隣から私を見つめる視線を感じた。ふと隣を見ると、そこには見覚えのある男がいた。「あ、やっぱり。この間、コンビニで七瀬さんと一緒にいた方ですよね」彼はにこやかに微笑み、気さくに声を掛けてきた。「あぁ、すみません。僕のこと、覚えてないですよね」「……いえ、覚えてますよ。久我さんでしたよね?」私が依織に好意を寄せている男を忘れるはずがない。普段なら作り笑いで対応するところだけれど、この日は母とやり合ったことで疲れていたせいもあり、笑顔なんて作る気力はなかった。私は真顔のまま、受け答えた。「こんな所で会うなんて偶然ですね。桜崎さんはよくここに来るんですか?」「え、あぁ、まぁ……そうですね。居心地いいんで」久我さんが躊躇うことなく私の名前を口にしたことに、少し驚いた。「僕もたまに来るんですよ。一人で飲みたいとき限定ですけどね」「それ、わかります」彼はビールを飲みながら、牛すじの煮込みを食べている。美味しそうに見えたため、私もすかさず同じものを注文した。「この間、七瀬さんと連絡先交換したんですよ」「……へぇ、そうなんですか」依織からそんな話は聞かされていない。私の知らないところで、二人の関係が少しずつ進展していることに、私は内心苛立ちを覚えた。「偶然外で会って、一緒に食事したんです。その日に連絡先交換したんですけど、ちょっと強引過ぎたかなと思って。今、反省中です」「依織は強引な人苦手だから、もう嫌われてるんじゃないですかね」つい棘のある口調になってしまった。何だろう、無性にこの男に腹が立って仕方ない。本気で依織を口説き落とせると思っているのだろうか。この胡散臭い笑顔も鼻につく。「久我さんのその笑顔って、営業スマイルですか?」「え?」「いや、何でもないです。とにかく、無理に私に話し掛けてくれなくて結構ですから。一人で飲みたいんで」シャットダウンした、つもりだった。もう私には関わらないでほしいという意思表示をしたはずだったのに、彼には伝わらなかった。「……桜崎さんって、結構鋭いんですね」「あの、私が言ったこと聞いてました?」「でも、実は僕も結構鋭い方なんですよ。特に、他人の気持ちには人一倍敏感で」「……」何か、面倒くさくなってきた。

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