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ハンベエは小さく笑って言った

ハンベエは小さく笑って言った。人を斬らなかった事を喜ぶロキへの返事なのに、妙に会話が噛み合わないハンベエである。恐らく念頭に、誰にも明かしていない千人斬りがあるから、こんな返事になってしまうのだろう。「ええー、じゃあハンベエは、あいつらが又絡んで来たら、今度は斬っちゃうつもりなのお?」「前にも言ったが、ヒョウホウ者だからな。」そう言いながら、つるりと顔を撫でて見せるハンベエであった。そのハンベエをロキはちょっぴり複雑な表情で見ていた。今回は騒動を避けたハンベエではあるが、ルノーとの間にはまだ一悶着有りそうであった。 割り当てられた王宮の客間にハンベエとロキは戻った。イザベラが所在無さげに椅子に腰掛け、白磁のカップで茶を飲んでいた。色合いから相当苦そうに見える。眠れなくなる事請け合いといった代物である。冷凍卵子「いい湯だったぜ。貸し切りだったから、イザベラもくれば良かったのに。」「貸し切り?まさかハンベエ、このあたしと一緒に入るつもりだったのかい。」戻る早々、普段に似ず愛想良く話し掛けたハンベエを、気のない様子で見やってイザベラが答えた。「あ、そうか一緒はまずいか。・・・しかし、お互い隠し事無しで打ち解けるいいチャンスだったのにな。」ハンベエは苦笑いしながら言った。「打ち解ける方法なら、他にもあるだろう。あたしはいつでもカモンて言ってるのに、何だかんだ理由を付けて先延ばしにしているのはアンタだろう。」「・・・まあ、そういう方法もあるな。・・・」「エレナが心配なので、今は気分じゃないけどね。」イザベラは王女を『エレナ』と呼んだ。おやおや、知らぬ間に随分と親密になったものだ。ハンベエ達のいない間にヒソヒソ話でもしていたのだろうか。ハンベエはその変化に気付いてイザベラの目を深く見つめた。「ここだけの話だけど、バブル六世はもう相当ヤバイらしい。今、エレナが見舞いに行っている。」イザベラは声を潜めて言った。「ええー、そうなのお。」ロキが声を潜めて驚いた。いつものすっとんきょうな胴間声もイザベラの様子に押さえられている。「悪い予感がするんだよ。」イザベラは芯から心配そうに言った。ハンベエは王女を心の底から心配しているイザベラを見て、はてさてと首を捻った。元々、イザベラは冷酷非情で冷笑的とも云える性格だったように思える。ハナハナ党退治で見せた悪漢の貫禄は、ハンベエをして寒気を覚えさせたほどである。それが、今回の王女への気遣いを見ていると全く別の人間のように思える。(人間の性格は変わるものなのかな。この俺は、性格変わったんじゃないかと言われ続けているが、イザベラの奴も最初出会った時とは、何か印象が違って来たなあ。それとも、俺はイザベラの一面しか見ていないのか。)ハンベエはぼんやりと、そんな事を考えていた。「悪い予感って?」ロキが尋ねた。王女親衛隊のロキとしては、聞き逃すわけには行かないイザベラの一言である。「一つはエレナの性格さ。繊細な質だから、父親が死んだりしたら、更に気落ちするだろうしね。でもそれより、バブル六世が死んだら、いよいよラシャレーとステルポイジャンの殺し合いが始まるって事さ。」「やっぱり始まっちゃうのお?」「王宮警備隊の兵士の動きが妙に慌ただしいんだよね。」イザベラが意味深に言った。 こいつ、何処まで王家の事情に通じているのか?と、ハンベエは訝しげにイザベラを見た。「良く見ているなあ。それとも、得意の占いか?」ハンベエは薄ら笑いを浮かべて言った。「ハンベエ、言い方が嫌みっぽいよう。王女様を心配しているイザベラに失礼だよお。大体、ハンベエは心配じゃないのお?」ロキがハンベエを咎めて言った。 あららら、と意外にもイザベラの肩を持ったロキの発言にハンベエは苦笑気味である。ロキはイザベラが嫌いだったはずじゃなかったっけ。おかしなものだと思いつつも、この若者は悪びれる事もなく、ロキに向かって言った。「誰を?国王の命についてなら、人間はどうせ死ぬ事に決まっているし、顔も見た事ない奴の生き死になんざ、どうとも思わないぜ。第一、俺の命じゃねえ。」心ないハンベエの言葉にロキははーっとため息を吐くと、

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