黒い瞳をうっすら涙で濡らしながら、胡蝶は今一度 頭を下げると
「…それと、森蘭丸殿のことも、お祖母様から色々と伺いました」
着物の袖口で涙を拭いながら、話を継いだ。
「実に従順で、父上様からのご信頼ひとかたならぬ御小姓殿であっそうにございますね」
濃姫は神妙な面持ちで頷く。【生髮藥】一文拆解口服生髮藥副作用丶服食見效需時多久? @ 香港脫髮研社 :: 痞客邦 ::
「…ええ。その通りじゃ」
「私、初めてにございました。父上様や、岐阜におわす信忠の兄上以外の…、親族以外の殿方のお顔を拝したのは」
「さぞや、怖かったことであろうな」
「…いえ、美しゅうございました」
「え?」
「父上様以上に美しい殿方などいないと思うておりましたが──いるのですね。あのように眉目秀麗なお方も…」
決して信長には聞かせられない言葉を呟きながら、胡蝶は茫然としたような、でもどこか夢見心地のような、
何とも言えない表情を浮かべると、ふいに満面を強張らせて、目前の母の顔を見据えた。
「それで母上様、あのお方はいったいどうなるのでございましょう?」
「蘭丸殿の、ご処分のことか?」
「はい。何か厳しいご処分を科されるのでしょうか?」
「……それは」
「まさか、死罪などということはございますまいな?」
胡蝶の問いに、濃姫は何も答えることが出来ず、苦しげな表情で押し黙った。
「…私、それは嫌にございます。私一人のせいで、誰かが命を落とすことになるなど……とても耐えられませぬ」
「胡蝶」
「どうか、それだけはなきようにと、父上様にお伝え下さいませ!」
「……」
「母上様!」
娘の必死な訴えを前に、何も答えてやれない自分を、濃姫は歯痒く思っていた。
そして同日のの刻(正午頃)。
密かに地下牢から出された蘭丸は、その頭に麻の袋をかぶせられて、のない回廊を男たちに伴われて歩いていた。
我が人生も最早これまでか──。
底知れない絶望感を胸に、蘭丸は今にもすくみそうになる両足を、最後の勇気を振り絞って、前へ前へと進めてゆく。
男たちが導くままに、蘭丸は長い廊下を渡り、幾つかの戸を潜らされると、
やがて御殿の深窓にある、小さな部屋の前庭へと連れて来られた。
男たちは押さえつけるようにして、蘭丸を地べたの上へ座らせると
「──外してやれ」
頭にかぶせていた袋と、彼の口にを外してやった。
「もう良い。参ろう」
そこまですると、男たちは役目を終えたとばかりに、蘭丸を一人庭に残して、速やかにその場から去っていった。
「………」
後ろ手に縛られて、重々しくれていた蘭丸は、暫らくそのままの状態で周囲の様子を伺っていたが、
何も起こらないと分かると、鎌首をもたげて、その両眼を糸のように細く開いた。
ぼんやりとした目が最初に認識したのは、の光。
そして、正面に浮かぶ人影だった。
部屋の前の広縁らしき所に座して、こちらをじっと見つめている。
「 …!! う、上様っ」
両眼が信長の姿を認識すると、蘭丸は慌てて頭を下げた。
その様子を見て、信長はふふっと忍び笑いを漏らす。
「常に冷静沈着であったそなたが、左様に驚き、あたふたとする様は実に新鮮じゃ」
「…上様…」
「まさか姫の姿を見られた故の打ち首とは申せぬ故、この深窓で秘かに刑を執り行い、そちの身は密葬に処することに致した」
「…御意にございますか」
「一夜経ってみて如何じゃ? やはり死ぬのは恐ろしいか?」
「いえ。既に、覚悟の程は出来ております故」
「左様か。さずかは可成の息子じゃ、腹が据わっておる」