「すまん…。…またお前か,大丈夫か。」
三津の顔を覗き込むようにしゃがみ込んだのは斉藤だった。
「すみません,また私です。」
笑いながら鼻をさすりゆっくり立ち上がった。
斉藤も首を捻りながら腰を上げた。https://fundly.com/understanding-endometriosis-causes-symptoms-and-diagnosis
人の気配には敏感だ。
いつもならぶつかるなんてことは有り得ない。
「以後気をつけます!」
三津は頭を下げてから小走りで斉藤の横を通り抜けた。
隊士たちが続々と集う広間で,斉藤は腕を組み一点を見つめて考え込んでいた。
『何故気配がない。』
せっせと配膳に勤しむ三津を目だけで追う。
気配がない所か,ちょこまかと動く姿は嫌でも目に留まる。
たえの後ろを三津がついて回り,三津の後ろを隊士がついて回る。
そんな光景をじっと見つめる。
食事の最中も土方の横に座する三津を,より近くで観察したのだが不思議と気配を感じる事が出来なかった。
そして二度あることは三度ある。
風呂へ向かう斉藤はまたも三津とぶつかった。
「何故だ。」
尻餅をついた三津を見下ろし,謝るよりも先に心の声が口から出た。
また気配を感じなかった。
斉藤は怪訝そうに首を傾げながら三津を引っ張り起こした。
『以後気をつけますとか言っといて,またやっちゃった…。』
落ち着きのない奴と思われてるだろうな。
真っ直ぐ自分を見ている斉藤を見つめ返すと,
「お前生きてるか?」
突拍子もない発言に三津は目を瞬かせた。
突然過ぎて呆然としてしまったが,ちゃんと心臓も動いてるし足も地についてる。
それを確認してからこくりと頷いた。
『何でちょっと考えたんだ?見れば生きてる事ぐらい分かる。』
変わった奴だとふっと笑うと,再び足を進めた。
その途中,今度は総司と出くわした。
当然のごとく総司とぶつかる事はなかった。
「沖田,あの小姓には気配がない。」
出合い頭に真顔で告げられ,総司はきょとんとした。
「小姓?あぁ三津さんですか?」
気配がないって何のことだ?
理解が追いつかず首を傾げていると,
「…何でもない。私の思い過ごしだ。」
溜め息をついて立ち去った。
置いてかれた総司は何の事か気になって仕方がない。
「三津さんに聞いたら分かるかな。」
会いに行く口実が出来た。
嬉々として土方の部屋に行き先を変更した。「三津さーん!ちょっといいですかー?」
部屋を覗くと不機嫌な土方と目が合った。
「あれ?いない。」
「あれ?いない,じゃねぇよ。勝手に入って来るんじゃねぇ。」
舌打ちをして拳を振り上げたが,総司は中に入り込み押し入れを開けたり座布団をめくったりして三津を探した。
「…あいつはいねぇぞ。」
「迷子ですかねぇ…?」
それでも箪笥の引き出しを一つずつ開けて,三津を探す素振りを見せる。
「てめぇ…斬るぞ。」
土方の手が柄に掛かったのを見て冗談ですよと苦笑して部屋を飛び出した。
『非番だから自室に戻ってるのかな?』
そう考えて三津の部屋を訪ねたが戻った気配はない。
総司の脳裏にはあの時の嫌な記憶が蘇る。
『まさかまた…。』
急に不安になり駆け出そうとした時,三津の笑い声がした。
耳を澄まして聞いてみると,どうやら大部屋の方から聞こえて来る。
「三津さん?」
大部屋を覗けば隊士たちに囲まれ,楽しそうな三津がいるではないか。
「こんな所で何してるんですか?行きますよ。」
総司は三津の手を掴むと隊士たちを押しのけて連れ出した。
「どこに行くん?」
『また土方さんが呼んでるんかな?』
三津以上に呆然とする隊士たちに見送られて,黙って総司について行った。
と言うより連れ去られた。
連れて行かれたのは総司の部屋。これは予想外。