名前で呼ばないでと言うのは,呼ぶのが自分だからだろうか。
『副長以外の男に名を呼ばれるのは好まないのか。』
二人の仲がそんなに深くなっていたとは気付かなかった。
『こいつは副長を深く想ってると言うのに,副長は簡単に任務に使う。
隊の為なら自分の女だろうが容赦ないのか。』
そう考えたら三津が不憫で仕方ない。【生髮藥】一文拆解口服生髮藥副作用丶服食見效需時多久? @ 香港脫髮研社 :: 痞客邦 ::
「少しの間だけだ。」
慰めにはならないと思いつつ,三津の頭を撫でてみた。
すると三津は笑みを浮かべて頷いた。
「はい,旦那様。」
そう言って笑う三津が健気に思えて,一瞬胸が高鳴った。
それから,斎藤と三津はどこに行くにも一緒。
「散歩に行くぞ。」
診療所に行かない日はこうして散歩に誘われて出掛けて行く。
「今日もいい天気ですね。」
こんな会話をしながら歩く姿は夫婦そのもの。
夫婦ごっこを始めて数日が過ぎて,今やこれを楽しむ三津。
「ねぇ旦那様。」
「何だ?三津。」
このやり取りにも,もう慣れた。
決まった時間に決まった道。
そこを散歩するのが仕事だと斎藤は言う。
そんな中,一部の隊士たちの間で妙な噂が囁かれていた。
「三津さんに赤子?」
「そうなんです。最近よく斎藤先生と出掛けるでしょう?
僕見たんです,二人が町の診療所に入って行くの。
それも頻繁に通ってるんです。」
隊士の話に総司はまさかと笑ったが妙に胸騒ぎがした。
それから徐に立ち上がり駆け出していた。
真相を確かめたいが一心で,二人を捜しに駆け出した。
「あ…。」
捜す手間が省けた。
向こうから仲睦まじく歩いてくるのは噂の二人じゃないか。
「あ,沖田さん!」
無邪気な笑顔はいつも通り。
元気に手を振ってくれるその隣りには寄り添うように斎藤がいる。
総司の胸がちくりと痛む。
笑顔で手を振り返したいのに,上手く笑えない。腕が上がらない。
「お出掛けしてたんですか?」
この一言で精一杯。
こんなにも三津の笑顔を見るのが辛いなんて,自分でも信じられない。
「ただの散歩だ。」
『私は三津さんに聞いたのに…。』
三津じゃなく斎藤が答えて,そのまま三津を連れて部屋に吸い込まれて行った。
それを見届けて,ようやく全てが繋がった。
斎藤が面倒を見ると言った訳。
何故責任を感じたのか。
噂は本当らしい。二人が入って行った部屋からは楽しそうな笑い声が聞こえる。
きっとあんな顔で笑ってるんだろうなって,突っ立ったまま考えていた。
『三津さんがどんどん遠くへ行ってしまう…。
それでも三津さんはいつもと何ら変わりなく接してくれるんだろな。』
三津はいつだってそうだ。
誰とでも親しくなれるんだ。
『その三津さんに特別な人が出来たんだ…。
お腹に赤子だっている。喜んであげなきゃ…。』
だけど,信じられない。と言うか信じたくない。
だって隊士たちが見たと言う現場を,自分は見ていない。
『そうだ。私は見てないんだ。そんな噂だけで信じられない…。』
女中の仕事を終えた三津は斎藤の姿を捜した。
今日はユキに会いに行く日だ。
「参ったな…。」
出掛ける時は声をかけろと言われていたのに斎藤が見つからない。
『一人で出掛けたらマズいやんね…。』
斎藤の居場所を知る人はいないか聞いて回ったが,知る者はおらず困り果ててしまった。
「一人でも大丈夫…かな。」
うん,大丈夫だ。
誰かに診療所へ行ったと伝言を託して出掛ければ問題ない。
三津は一人で診療所に向かった。