頭まですっぽりと隠れる布を被り、大八車を曳いて行商人を装い十人が山陽の門へ向かう。体格が良い男らがまとまってやって来たので違和感を得て「お前達、荷を改めるぞ!」門兵が近づいてくると、それを殴り倒してしまう。
荷台から獲物を取り出すと門を守っている残りの兵を片っ端から倒してしまう。布をはぎ取り十人が門の中央に陣取る。
「はっはっはっはっは! 甘興覇がこの城もらい受ける!」
腰につけている鈴を鳴らして、避孕方法 あちこちに突っ込んでいっては大暴れしている。それをみた曹仁が負けじと吠える。
「曹子孝が参る!」
山陽県の守備兵はたまったものではなかった、少数の涼州兵がやって来て立ち向かうも、あまりの強さに後ずさってしまった。
「なんだこいつらは!」
城内で待機している兵が続々と集まって来るが、一斉に襲い掛かっても全く崩れずに辟易する。そこへ遠くから騎馬が駆けて来るのではないか。
「こいつらを倒して直ぐに門を閉じるぞ!」
遠巻きに矢を射かけた後に、矛の先を揃えて一斉に突っ込む。そこへ夏侯淵と趙厳が弓を連射した、戦列に穴があく。典偉と夏侯惇がそこへ突っ込んでいくと、二人、三人をまとめて跳ね飛ばして突撃を鈍らせる。
抜けて来た城兵をそれぞれが相手をするが、全く対抗出来ずに城兵が沈んでいく。さっと十人が門の中央を空けて脇に身を寄せた。すると黒軍装の騎兵団が突っ込んで来る。
「邪魔する奴は踏みつぶせ!」 北瑠が叫び先頭で城へ突入する。重装騎兵に対抗出来るのは重装騎兵だけ、歩兵は馬に接触すると文字通り跳ねられて宙を舞う。馬上から振るわれる矛の一撃は頭を割り、反撃は良くて足に傷をつけて終わり。
「無理だ、逃げろ!」
誰かが逃げ出した瞬間、士気が崩壊して城兵が散り散りになって背を向け走っていく。重装騎兵は弓を手にして追撃を仕掛けた、各所の門が開け放たれて我先にと外へ行く奴らを侮蔑の視線で見送る。
遠くからゆっくりと騎馬が並んで城へやって来る。
「なんと踏ん張りが無い奴らだ、城を護るために駐屯しているのではなかったのか」
「上手くいくときはこんなものだろう。島殿の気持ちも理解出来るがな」
「取り敢えず城の備蓄を頂くとしよう」
山陽にどれだけが積まれているのかは知らないが、全く空っぽではないだろう。戦利品と言う奴だ。
「島殿の手柄だ、貴殿が全て持って行くと良い」
本当は補給が厳しく幾らかでも欲しいはずの曹操だが、何かしらの考えがあってかそんな申し出をしてくる。
「では装備品は貰っておこう。金と食い物は双方兵に分け与える、それでどうだろう?」
思っていたのとは違う処理を突き付けられて、数秒考えた後に「士気が上がれば次につながる、大いに結構だ! ははははは!」全てを認めた。何があるかを調べた後ではないところに、若干のつばぜり合いがあった。荀彧はそれを黙って聞いているだけで、頭では先のことを考えている。
曹操が側近らと何か話をしている間に、島は荀彧の隣に行く。
「どうした、何か思いついたか」
「敵兵が逃げ出していったのをご覧になられましたか」 何を言い出すのかと思えば、妙な物言いだった。ではそこにどんな意味があるのかを考える為に、先ほどのことを思い出す。
「ああ意気地なく逃げて行くのを見たぞ。それがどうかした…………ん、もしかして?」
荀彧は微笑む、何かに気づいたのが嬉しかったのかどうか。
「はい、城兵は西へと逃げて行きました。なぜ懐県がある南ではなく西へ逃げたのでしょう」
「そちらに味方がいるからだな!」
山陽の北側は山地、西は山の裾野が続いていて、一日と半分の距離で野王県があった。最初からそちらへ逃げるように命令があったか、さもなくば味方がいるというのは説得力がある。
「懐には徐栄の本隊があるでしょう、榮陽にも李蒙隊が。となれば残るは李粛の騎馬隊が潜んでいるものと思われます」