「皆様方の支援をいただき、不肖この袁本初が盟主を務めさせて頂きましょう。宜しければご唱和の程を」
盃を掲げて反董卓連合軍の結成を叫び皆で飲み干した。その日は兵にも酒と肉が振る舞われて大いに英気を養うことの成る。
そこから数日のこと、buy the dip 相変わらず幕では酒宴が行われていた。
「なんだと、王匡殿が敗戦した!」
ほろよい気分だったところへ衝撃の報告がもたらされる。つい盃を取り落としてしまったのは曹操だった。
「なぜ王匡殿が? 籠城していれば数か月は持つはずだが、何が?」
その疑問は先着していた冤州の太守らも浮かんでいた、いくら大軍で襲い掛かろうと一度に攻められる数など決まっている。攻城兵器はこの雪では移動も設置も出来ない、どうして落城したのか。
「そ、それが、懐を出撃して河陽津を占拠したところ、徐栄軍に包囲され壊滅致しました……」
別に伝令が恥じ入ることなど何もないのに、申し訳なさそうに説明をする。折角集って士気が上がって来ていたのに、一気に冷水を頭から浴びせられたかのような雰囲気になってしまった。
「城を出ただと? なんと愚かな……」
うなだれてしまいため息をつく曹操、その気持ちが痛いほどわかった鮑信や張貌は、軽く肩に手を添えて頭を左右に振った。それ以上言うなと。
「それで王匡殿の安否はいかがなのでしょうか?」
孔抽が細いが綺麗な声で尋ねる。生きていれば再度また戦いに身を投じることも出来る。
「行方不明です」 あちこちから唸り声が聞こえてくる、戦争中に負けて行方不明、十中八九は戦死しているだろうとみて間違いない。これからだ、というところで出鼻をくじかれたのはかなりの痛手だ。これではいかんと察した曹操、気を取り直して声を上げた。
「河内太守王匡殿の奮戦を無駄にしてはいけない。積雪があろうと戦えることを示し、一時は董卓軍を押し出し進軍をしてのけた。ならば! 我等もこれにまけじと進もうではないか! どうだ諸侯らよ!」
それぞれが互いに顔を合わせ、そしてチラッとだけ曹操を見てから視線を伏せる。勝てるからと誘いにしぶしぶ乗って来たのが大半なのだ、もし相手が強いならば懐柔される方がどれだけ気楽か。
「……これだけの勇士が集まっているというのに、誰一人声を上げないとは! 見損なったぞ!」
「おう孟徳、その位にしておくんだ。あっちで頭を冷やそう」
鮑信が曹操を連れ出して行く、盃を置いて皆がうなだれる。烏合の衆とはこれだろう、盟主とはいっても指揮権があるわけではない。命令して拒否されれば袁紹が恥ずかしい思いをするだけ、誰かが名乗り出ればそれを許可するが一人もいなかった。
忸怩たる思いを胸に曹操は連合軍が動くのを今か今かと待ち続ける。二月に入ると大きく状況が変化した、何と董卓が献帝を長安へ移し、朝廷機能を洛陽から移設しだしたのだ。洛陽と長安はともに帝の居城として治世を過ごしていた時期がある、それにしたとておいそれと遷都することなど出来ようはずがない。 実際に国政機能のみを移すという話らしく、献帝とその供回りが長安へと行き、董卓らは洛陽に残っているそうだ。酸棗に駐屯して暫く、ついに雪解けの時期に差し掛かって来た。
曹操は待機が続くのが精神的に堪えるだけでなく、現実問題として兵糧が心もとなくなってきていた。というのも、殆ど皆は太守や刺史といった官職があり、租税を戦費にまわせているのに曹操は行奮武将軍という自称の官職しかない。手出しが続き最早自然消滅しそうな勢いだったのだ。