翌日、桜司郎は土方とは時間をずらして屯所を出た。通行量が多く、人の目に付きにくい四条大橋で合流する。
とは言え、元々その整った見目で人目を引きやすい土方がキッチリと黒の紋付羽織袴で決めているため、自然と女からの視線を受けていた。その上、愛らしい見目の桜司郎が共に歩いているとなると、余計にである。
それに慣れているのか、土方は全く気にする素振りすら見せずにズンズンと歩いていく。
「まずはお前さんの格好から何とかしなきゃな。子宮腺肌症 ほら、何ぼうっと突っ立っていやがる。早く案内しろ」
「わ、分かりました。……にしても、副長はあまりにも目立ちすぎですよ。私までバレたらどうしよう……」
「あ?大丈夫だよ。お前さんだって分からねえくれえに、別嬪にして貰えりゃあ良いだけだ」
それはどういう事かと、桜司郎は土方を軽く睨んだ。世辞を嫌い、こういう歯に衣着せぬ物言いをするのが土方歳三という人間かと、すぐに諦める。
「……ソウデスネ」
そのようにぶっきらぼうに返すと、歩調を早めた。
清水へ向かう坂を登り、産寧坂に差し掛かる。やがて花のいる茶屋へと到着した。
「桜花はん。お待ちしとりましたえ。……ええと、こちらの色男はんは?」
「副長の土方先生。その、私のことはこの方も知っていて……」
そのように返せば、花は直ぐに心得たと言わんばかりに頷く。
「花と申します。早速やけど、お着物から選んだ方がええどすな。弥八郎も協力してくれる言うとったから、お隣行きまひょ。……良ければ副長はんも」
いつぞやの借りを返す意味合いで、呉服屋の弥八郎が着物を貸してくれるとのことだった。
店の奥では、色とりどりの着物がズラリと並べられている。女子の流行が全く分からない桜司郎は唸ることしか出来なかった。
しかし、それとは反対に土方は次々と着物を選んでいく。最終的には朱色の襦袢に黄緑の内着、薄桃色に花があしらわれた黒衿の小袖が選ばれた。どうやら重ね着が流行のようだった。
「どうだ、鈴木。悪かねえだろう?」
まるで自分の作品を見てもらう子どものように、土方はニッと笑う。
「か……可愛いです」
桜司郎の言葉に、土方は更に機嫌を良くした。
花と弥八郎からは感嘆の声が漏れる。
「かいらしいわ、桜花はんにお似合いどす。副長はん、よう分かっとりますなぁ」
「随分と見立てが慣れてはる。流石は色男どすわ」
そう言われ、土方は昔を思い浮かべるように笑みを深くした。
「俺ァ、十一の頃にの呉服屋へ丁稚奉公に行ったことがあるからな……。目利きは得意なんだよ。女の流行りなんざ分からねえが、見てりゃあ何となく分かる」
つまり、花街で目が肥えているということかと、桜司郎は深読みをしては苦笑いする。
それを察したのか、土方にじろりと睨まれては肩を竦めた。 次に弥八郎が呼んだ髪結師によって、島田髷に結われる。桜司郎は、沖田から貰った簪をこっそりと持ってきており、それを挿してほしいと頼んだ。
そして土方が選んだ着物へ身を包めば、どこをどう見ても女に見えるようになる。
「いやぁ、かいらしいわぁ〜!ささ、今度はお化粧どす。うちが、うんと別嬪にしたるからね」
張り切った花は楽しそうに笑うと、自身の化粧道具を広げた。
「お、お手柔らかにお願いします……」
どうにでもなれ、と桜司郎は身を任せるように目を瞑る。白粉がはたかれ、目元と唇、頬に丁寧に紅を差された。
やがて、式台で腕を組みながら待つ土方の元へ向かう。
「副長……。お、お待たせしました……」
その声に土方は振り向くなり、切れ長の目を見開いた。
それはその筈で、目の前にいる部下はとんでもなく良い女に変身している。どこからどう見ても、男に混じって刀やら木刀やらを振り回しているようには見えなかった。
「お、お前…………本当に鈴木か?」