沖田からもうひとときも離れていたくない、ずっとふれていたい、その以前の比ではなく胸奥を抉られそうなほどの強烈な希求は、最も傍まで近づけたからこその反動ともいえるように思う。
沖田にふれていられず離れている間の、こんなにまで心が体が魂が餓えて苛まれる辛苦を、昨夜までの冬乃は確かに知らなかったのだ。
この感覚をもしmoomoo singapore一方の沖田のほうは、すでに持ち、一年も叶わぬままに抱え続けていたのだとしたら。
(私だったら、気が狂ってるかも・・)
想像するだけで冬乃は、最早ぞっとしてしまって。
ぶるり、と身震いした。
「どうした」
沖田が覗き込む気配がした。
「じゃよろしくな」
永倉がちょうど襖を開けて出てゆくさなかで。
「了解です」
返事で永倉を送りながら、襖の閉まる音に重ね、「冬乃」と今一度沖田が覗き込む。
(なに言ってんの私)
冬乃は咄嗟の声が出せずに。俯いた。
(・・・一年どころか・・)
沖田が死した後は。
それが一生続くのだと、
次には冬乃は思い出して。
(・・・覚悟してたつもりだったのに)
関係が深まれば深まるほど、後でよけいに苦しむだろう事ぐらい。
・・想像しきれていなかったとはいえ。 「沖田も、ガラにもなく長い間よく耐えたなあ・・!」
(え)
「俺が望んで待っていた事ですからね。ところで御用は」
「あ、そうだった。ええとよ、この前さ・・」
永倉と沖田が会話を続けるを背に、
冬乃は、地蔵のまま永倉の先の言葉に暫し思いをめぐらせていた。
ガラにもなく、というのは恐らく沖田がそんなに辛抱強いほうではないという意味なのだろうけども。それでも、
耐えた、ということは、
そして、沖田が望んで待っていたと言ってくれたということは、
やはり冬乃が以前に想像したように、いやきっとそれ以上に、沖田は冬乃のため冬乃を抱くのを強く我慢していた、
ということなのではないか。
それも長い間、つまり永倉の話の様子からすれば、恋仲になった時から冬乃が居なかった間も含めて優に一年以上。
男性にとってそれがどれほど辛いものなのか、冬乃には想像もつかないものの。
(総司さん・・)
先ほどの沖田の台詞が想い起される。
冬乃が恋わずらうよりもずっと前から、と。
冬乃にとっては、
「沖田、悪い、ちょっと今いいか」
そこへ響いた永倉の声に。
驚いて襖を見やった冬乃を、抱きかかえたまま沖田が例に漏れず「どうぞ」と返したのへ、
慌てる冬乃の想いむなしく。
すらり、と襖が開かれた。
「おお?!」
永倉が当然、目を瞠り、冬乃が当然、目を泳がす。
「読解の特訓中ですが、お気になさらず。どうされました」
永倉が来るのは珍しいのか、沖田がにっこり尋ねた。
「いや、気にするなと言われてもなあ・・」
永倉が笑うなか、冬乃は諦めて沖田の腕の中でもぞもぞ前へと向き直る。
「まあでも、仲睦まじいのは良いことだよ。最初、本当の恋仲になったと聞いた時にはそれはそれは驚いたけどよ」
(あ・・)
どこか懐かしむような永倉の声音に、冬乃も一瞬にあの頃を思い出して。感動の心地で、つい再び永倉のほうを向いた。
「で、おまえらもう、いきつくとこまでいったの?」
即、前へと向き直った。
「ええ」
沖田があっさり回答し、冬乃はそのまま地蔵になる。
「そうかそうか!良かったな!」
だが永倉のなぜか他人事でないくらいに喜ぶ声が続き。 心ならずっと、互いにもう傍にいるというのに。それなのに、その優しい声を聴いて、愛しい姿を見て、腕のぬくもりを感じて、大好きな芳りに包まれていたいと、求めてしまうのだから。
(・・それでも)
すべてが時の壁に阻まれていたあの頃と比べたら、
体が離れていても、心だけでも傍にいることの叶うひとときは、どれほど贅沢なことだろう。そう思えば冬乃は、昔の自分自身に詫びたくなる。
(わかってる・・けど、)
自分ではどうしようもないから病なのだ、
冬乃は胸内で小さく言い訳し。
「なります・・」
嘘の返事で、沖田から目を逸らした。
あいかわらず、お見通しのように。
ふっと喉で哂った沖田の、温かい手がそんな冬乃の髪をそっと撫で。
「まあ今のは、俺が己に言い聞かせてるようなものだが」
(え?)
驚いて再び沖田に目を合わせた冬乃に、
「冬乃という薬が必要なのは、俺も同じ」
「それも、恐らく冬乃がわずらう、ずっと前からね・・」
穏やかに微笑う澄んだ双眸が。見開いた冬乃の瞳に映った。