もっとも山野ほどでなかろうと、言っての通り眼鏡が似合いそうなその面立ちは、千秋あたりに言わせれば十分すぎるほどのイケメンだろう。
「・・・」
(あ)
じっと見つめてきた冬乃に驚いたのか、池田が再び目を見開いて。
冬乃は慌てて逸らした。
「仕事がありますので、失礼します」
そのままくるりと池田に背を向け。
蟻通が教えてくれた事を思い出す。
池田の、勝ち負けに重きを置くあの様子では、ああまで冬乃を呑みに誘うのも解る気がする、と。もはや苦笑しながら冬乃は、隊士部屋へと急いだ。
【序章を・・・】
ものすごくいまさら、序章を用意してみたのですが、
どうもこちらのエディタは、さかのぼっての挿入ができないようすで
かといって、今の恋華繚乱の章に挿し込んだら情けない事態になるので、
サポータ特典のほうへ載せてみました・・・
こちら直アドレスです→
噂をすれば、山野が現れた。
(てか私のなかで噂してただけだけど)
対面するなり、何を思ったか、あいかわらずのその美麗な顔がいきなりニヤリと哂って。勿論、そんな表情すら美しく。
「・・・何ですか」
隊士部屋へ向かう広い廊下の角で。
げんなりしつつも、どうせ無視して通り過ぎても呼び止められるのは想像できた冬乃は、立ち止まり、
さっさと話があるなら終わらせてと眼に訴えて、山野を見据える。
「おまえ最近、大変そうだな」
冬乃の刺々しさには当然に慣れきっている山野が、意に介さぬふうで話を始めた。
「俺とくっついたことにでもしときゃ、収まるのに」
「絶対いやです」
冬乃の即答に、山野が想定内とばかりに哂う。
「だったら“世話役”の沖田さんに頼んじまえばいいんじゃないか」
冬乃が瞠目するのを。
「名案だろ」
山野がその可愛い笑顔で受け止めた。
「沖田さんの女だったら、誰も手ださなくなる」
(そ・・そんなこと、)
頼めるわけないから・・!!
想像しただけで顔がかあっと紅くなるのを感じて冬乃は、胸内に絶叫する。
「俺から頼んでやろうか」
「余計なお世話です・・!ぜったいやめてください」
またも即答した冬乃に、山野が肩を竦めた。
「沖田さんだったら快諾してくれんだろ」
「そんなの、御迷惑にきまってます!」
「・・・」
「なんです」
何かひどく言いたげな山野に、冬乃はおもわず睨みをくれる。
「おまえって・・やっぱ鈍感なんだな」
「は?」
「まあ、いいや。恋敵の応援するつもりは無えし」
とりあえず、
と山野が冬乃に手を伸ばし。
後退ってそれを避ける冬乃に、
「俺ならいつでも歓迎だから」
言い置くと、避けられた手を冬乃へ深追いさせることはなく。山野は去っていった。
・・恋敵?応援?
(意味不明だし。だいたい鈍感ってなんなの)
何が言いたかったのか知らないが、結局呼び止められて時間を浪費しただけのような。
(やっぱ止まるんじゃなかった)
冬乃は再び、急ぎ足で隊士部屋へと向かい出した。
【おしらせ】
前回の『斎藤さんの、ある日の観察小噺』につづきまして、
『土方さんの、ある日の観察小噺』を用意いたしました^^!
こちらも本編と連動しており、
こちらの設定時期も、本編の第二部『一点紅を手折るは』の頃です。
ついでに作者の趣味で、土方さん、いじられてます^^;
いつも本当にあたたかいスター応援をありがとうございます。
そして悠さま、あらためて素敵なリクエストをありがとうございました・・v
☆設定値は、予告どおり10で設定させていただきました。
達してくださってましたらぜひ覘いてらしてくださいませ。
(はあ・・・)
広すぎる。
何畳あるのだろうか。
数える気にもならないほど、見渡す限りの畳に、
休憩に戻ってきている隊士達が点在しているなかで。冬乃は雑巾を手に、溜息をつく。
(今日もほとんど此処で過ごして終わりそう)
「おい、おまえら!道場こいよ!」
そこへ突然、隊士が数人、駈け込んできた。
「沖田先生が三浦の野郎をしごいてるぞ!!」
(え)
冬乃がおもわず振り返った、そのまわりで、
「ほんとか!?」
「うおおおおお!!」
「よっしゃあ!!」
次々と歓声が上がり。
(よっしゃあ、って・・)
やはり三浦は、よほど普段の素行が悪いのだろうか。
三浦が客員待遇なだけに、もしかしたら平隊士たちは、大抵は我慢するしかない立場なのかもしれない。
そして隊士部屋からは、あっというまに人がいなくなった。
「・・・・」
(しごいてるって・・・すごく気になるんですけど・・・・)
冬乃も見に行っていいだろうか。
いや、いいはずがない。だが。
(ちょっとだけ)
誘惑に。負けた。
「まさか、この程度で休めるつもりじゃあないだろうな」