忍者ブログ

freelance

「良かった…落ちた…。」

「良かった落ちた。」

 

 

丁寧に洗った甲斐があった。

点々とついていた血も染みになる前に取れた。

 

 

あまりごしごし洗って着物を傷めてしまわずに済んで良かった。

穴なんか開けて弁償だと言われたら,一生タダ働きに違いない。

 

 

「汚れは取れたか?」顯赫植髮

 

 

っ土方さん!」

 

 

いつから見られていたのやら。

土方が腕組みをしてこっちを見ている。

 

 

「綺麗になりましたよ!」

 

 

三津は満面の笑みで着物を広げて見せた。

土方はそれを見て穏やかに笑みを浮かべて頷いた。

 

 

「落ちなかったら弁償させようと思ったのにな。残念だ。」

 

 

「言うと思いましたよ。でもそんな大金持ち合わせてませんからね!」

 

 

さっきまで泣いてたとは思えないぐらい元気で,土方はほっとした。

まだ泣かせてしまった罪悪感が胸にどっかり居座ってた。

 

 

「知ってるさ。だからそん時は体で払えよ。」

 

 

「なっ!」

 

 

三津が耳まで真っ赤にして口をパクパクさせるのを愉しげに眺めてから部屋へ引き返した。

 

 

背後で抗議の声がしているが聞こえぬふり。

さっきより気持ちが軽くなった。

 

 

『土方さんもう怒ってないみたい。』

 

 

「良かった。」

 

 

いつもの土方に戻っていて三津もほっと胸を撫で下ろす。

 

 

「何が良かったんです?土方さんは三津さんに下品な発言したんですよ?」

 

 

今度は総司がすぐ後ろに立っている。

ぷんぷん怒って口を尖らせているから,一連の話は聞かれていたみたいだ。

 

 

「そりゃ体では払えへんけど,土方さんの機嫌が直って良かったなって。」

 

 

背負ってくれるまでの土方が,どれほど冷たく感じたか。

言葉では言い表せないぐらいの恐怖も感じた。

 

 

「でも土方さんがおぶって連れて帰ってくれるの二回目なんよね。また恩が出来てもたわ。」

 

 

洗い終えた着物をぎゅっと絞って干しにかかる。

風で揺れる若草色に目を細めた。

 

 

「でも土方さんがおぶらなければ,三津さんはここへ来なくて済んだのに。」

 

 

総司の目が悲哀に満ちる。

伸ばされた手はそっと頬に触れた。

 

 

「傷治りましたね。治らなければどうしようかと思いました。」

 

 

悪戯っ子の笑顔が今は弱々しい。

 

 

『それってやっぱり私が迷惑って事?みんなの仕事増やしちゃうとか。』

 

 

だんだんとここに居てはいけない気がして,胸が苦しくなった。そう言えば私何の為にここに来てるんだっけ?

 

 

それは土方さんにお世話になったお礼に,ここで恩を返す為でしょ?

 

 

分かってる。分かってるんやけど役に立ってるかと言えば自信がない。

 

 

「おい。」

 

 

女中としての仕事はバリバリやっている。

料理も美味しいって好評だし

 

 

「おい。」

 

 

でもここ最近土方さんを怒らせてばっかりだ。

外に出たらいつも刃傷沙汰だし,泣いてばっか。

 

 

「はぁーあ。」

 

 

「おいこら三津っ!!

 

 

「はいぃっ!!

 

 

溜め息をついて丸くなった背中がシャキッと伸びた。

 

 

「てめぇ,さっきから辛気くさい顔して人の呼びかけにも応えず盛大に溜め息つくとは何事だ?あ?」

 

 

「すすみません。」

 

 

また怒られた。何て駄目なヤツなんだ。

 

 

「何考えてた。」

 

 

土方の呆れかえった顔により一層駄目な奴と言われてるみたいで辛かった。

 

 

「あの私役に立ってます?」

 

 

「それなりにな。そんな風に聞くところ見りゃあお前自身は役に立ってるとは思っちゃいないな?」

 

 

バレバレだった。ここまでズバリ言い当てられると何も言えないし,苦笑するほか無い。

 

 

「そんな下らない事考えてる暇あったらもっと仕事覚えるか出来る事探せ。」

 

 

そうすれば優秀な小姓として,まだ傍に置いておける。誰にも文句も言われずに。

 

 

「そそうですね,ごもっともです。」

 

 

下らない事なんかじゃない。

恩返しに来て足引っ張ってちゃ意味がないんだから。

必要とされなければいる意味がないのに。

 

 

「何だよ帰りてぇのか?」

 

 

「え?」

 

 

土方の真面目な顔が真正面にある。

 

 

「そうやないんですけど,居た方がいいんですかね?私。」

 

 

「何が言いたい。はっきり言え。」

 

 

鋭く睨まれるのはいつもの事。だけど今日は体がビクビクしてしまう。

 

 

「余計な事言いました!ごめんなさい!もう寝ます!」

 

 

三津は衝立の後ろに隠れて更に布団の中に逃げ込んだ。

 

 

『言うんじゃなかった。』

 

 

ただ迷惑じゃないと言って欲しかっただけなのに。

 

 

『何で急にあんな事言いやがる。やっぱり若旦那となんかあるな。』

 

 

居た方がいい?って,まるで自分は居たくないけどここに居ますって言ってるみたいだ。

 

 

着物洗ってる時はいつも通りだったじゃないか。

 

 

『女って面倒くせぇ。』

PR

コメント

プロフィール

HN:
No Name Ninja
性別:
非公開

カテゴリー

P R