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なんか持ってもら

 なんか持ってもらって申し訳ないな~と思いながら、唯由はキャリーバッグを引っ張ってくれる蓮太郎の横を歩いていた。

 

「一泊だよな?

 なんでこんなにいっぱい荷物があるんだ?」

 

「あ、えっと。

 移動中とか夜やろうかと思って、世界公民 ゲームとかトランプとか持ってきたんです」

 

「学生か」

と蓮太郎に言われたが、

 

 いやいや、話が途切れて緊張しないようにですよ、と唯由は思っていた。

 

「ゲームって、まさか、叩いて殴って、じゃんけんぽんじゃないだろうな」

 

 唯由は、ははは、と笑って言う。

 

「やだな~。

 叩いてかぶって、じゃんけんぽんですよ~」

 

……いや、お前が言ったんだよな」

 

 そうでしたっけね? と思いながら唯由は淡いイエローのキャリバーグを見て言った。

 

「ハリセンは入ってないですよ。

 まあ、ハリセンも兜も現地で作れますけど。

 

 あれ、盛り上がりますよね~」

 

「そういう盛り上がりは男女の旅行には不必要だと思うが……

 

「そうなんですかね?

 楽しいのはいいことだと思いますが。

 

 楽しい記憶が多い方が、きっと、この旅行、いい思い出になりますよ」

と笑うと、蓮太郎はちょっと照れたように、

 

……そうだな」

と言う。 人の行き交う新幹線の改札口を見ながら唯由は言った。

 

「そういえば、叩いてかぶって、じゃんけんぽん。

 月子が好きなんですよね~」

 

「いや……たぶん、好きじゃないと思うぞ」

 

 キャリーバッグを手に短い階段を上がりながら、何故か蓮太郎はそう言ってきた。

 

 

 会社の話をしているうちに駅について、新幹線は降りた。

 

 そこから普通の電車に乗り換える。

 

 最初は結構ぎゅうぎゅうに人がいたのだが、街中を外れると、やはり空いてきた。

 

 窓の外には、長閑な田園風景が広がっているが。

 

 何処の田園風景もちょっと似ていて、懐かしい感じがする。

 

 がらんとした電車の長い座席に二人並んで座っていた。

 

 短いトンネルを通ったとき、窓ガラスに自分と蓮太郎が見えて。

 

 唯由は、人から見たら、私たち、どんな風に見えているのかなあと思う。

 

 まさか、コンパ、

 それも、別々に開催されたコンパに行って。

 

 なんとなく合流して。

 

 王様ゲームで指名されて。

 愛人のフリをすることになって。

 

 今、ふたりで横並びに電車に乗っている人たちだ、とは思わないだろうな。

 

 そんなことを考えて、ふいに黙った唯由に蓮太郎が訊いてくる。

 

「どうしたんだ?」「いえ。

 雪村さんと出会ってから今までのことが走馬灯のようによぎりまして」

 

「短い走馬灯だな」

と言ったあとで、蓮太郎は、

 

「まだ旅行はこれからなんだ、死ぬなよ」

と言う。

 

 死ぬなよ、と言うわりには、淡々とした口調に、ああ、雪村さんだなあ、と思って笑ってしまう。

 

「外は暑そうだな」

 

 何処までも続く田んぼを見ながら蓮太郎が言った。

 

 田んぼのど真ん中の道を自転車で走っている女子高生がいる。

 

 休日なのに、制服のスカートをひるがえして走っている彼女は部活の帰りなのか、模試の帰りなのか。

 

 なんにせよ、暑そうだ、と思った唯由は、

「そういえば、ハンディファン持ってきましたよ」

とゴソゴソ鞄から雑誌の付録の可愛いミニ扇風機を出してきた。「こういうのって涼しいのか?」

 

「結構涼しいんですよ」

 

 唯由はミニ扇風機のスイッチを入れた。

 

 蓮太郎に渡そうとして、蓮太郎の手に指先が触れる。

 

 その手の体温を感じただけで、どきりとして、手を離してしまった。

 

 可愛いキャラクターのついたミニ扇風機がふっ飛んでいきかけ、慌ててつかむ。

 

「い、生きてますね、この扇風機……

 

 蓮太郎の手に触れただけで動揺してしまったことを誤魔化すように唯由は言った。

 

……生きてるな、この扇風機」

と蓮太郎も認める。

 

 指が触れたとき、蓮太郎もビクッとして手を離したように見えたので、それでだろう。

 

 扇風機をつかんだまま、唯由は黙り、蓮太郎も黙った。

 

 向かいの席に座っていた幼い男の子だけが、

「ママー、あの扇風機、生きてるんだってー」

とこちらを指差し言って、しっ、と苦笑いしているママに言われていた。

 

 

 宿のチェックインまで時間があるので、唯由たちは近くのテーマパークに立ち寄っていた。

 

 少し眺めて食事でもして時間を潰そうと思ったのだ。

 

 しばらくすると、大野美菜から電話がかかってきた。

 

「蓮形寺~。

 ラブラブデートはどんな感じ~」

 

 我々は仕事よ~という美菜は社食が閉まっているので、同じく出勤してきていた道馬たちとランチに来ているのだと言う。

 

「今、お蕎麦を食べて。

 町娘になって、散策しています」

 

……あんた何処に行ってんの?」

 

 唯由たちは江戸の町を模したテーマパークに来ていたのだ。

 

「えーっ。

 いいなあ。

 

 私もお姫様とかになりたい~。

 

 雪村ヤンバルクイナもなんか仮装してんの?」

 

「雪村さんは、かぶき者の格好しています」

 

「それ仮装じゃないじゃん。

 あいつ、普段から生きざまが、かぶいてんじゃん」

 

 確かに、と笑って電話を切る。

 

 駅には宿からの迎えの車が来ていた。

 

 見晴らしのいい山の宿に着くと、従業員たちがずらりと並んで出迎えてくれる。

 

「唯由」

と女将のが出てきたので、唯由は慌てて蓮太郎に小声で言った。

 

「あの、おばさんのことは、保子さんでお願いしますね。

 おばさんとか言うと、はっ倒されると思うんで」

 

「はっ倒しゃしないわよ。

 まあ、ゆっくりしていきなさいよ」

 

 ……聞こえていたようだ。

 

 保子は、ふうん、と蓮太郎を上から下まで眺めたあとで言う。

 

「あんた、こんないい男でいいの?

 お母さんみたいに浮気されるわよ。

 

 まあ、浮気とかできるほど小器用そうでもないけど。

 

 あんたのお父さんだって、ただただ不器用でやさしい人だったのに、あんなことになっちゃったんだから。

 

 早月さん、なんで、あんな昔の恋人を突き離せないような優柔不断な男を選んじゃったのかしらね。

 

 面倒見のいい人だからかしら」

 

 そ、その優柔不断な男の方があなたの実の弟ですが、保子さん……

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