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「電話をしようかな

「電話をしようかな、と思いながら歩いていたら、お前のアパートに着いたんだ、奇跡だ」

 

「いや、此処、来たことありますよね?」

 

 なにも奇跡じゃないのでは?

と唯由は言ったのだが。

 

「いや、奇跡だ。

 俺は極度の方向音痴なんだ。

 

 お前のもとにたどり着けたのは運命だ」

と蓮太郎は主張する。

 

 あのー、と唯由は遠慮がちに訊いてみた。

 

「今日、singapore stock trading platform たまたまバッタリ出会わなかったら、どうなってたんでしょう?

 もういいやで終わりだったんですかね?」

 

 どうもなにもかもが偶然と運任せな気がして。

 

 困っていると言ったわりには、そんなに必要とされてないような。

 

 じゃあ、別に、私、愛人やらなくていいんじゃないですか?

と思いながら訊いてみたのだが。「もういいやになるわけないだろう。

 愛人になってくれなんて、普通の人に頼めるわけもない」

 

 ……私、普通の人じゃないんですかね?

 

「王様ゲームという素晴らしい遊びにより、得られた下僕を逃すわけないだろう」

 

 だから、王様ゲームにそんな拘束力はありませんって。

 

「別に運任せにして放っておいたわけじゃないぞ。

 

 コンパの主催者同士は連絡とりあえるだろうから、そこから訊いてもらえばいいと思ってただけだ」

 

 訳のわからないことを言うわりには、そこは冷静なんですね。

 

 そう唯由が思ったとき、保存容器を片付けながら蓮太郎が言ってきた。

 

「食べ終わったか?

 じゃあ、ちょっとでもデートでもしよう」

 

 なんですか、このタイトなスケジュール。

 

 ちょっとでもデートしようとか。

 聞きようによっては情熱的だが。

 

 この人の場合は、たぶん、愛人に仕立てるために、踏まねばならない行程を無理やり詰め込もうとしているだけだ。

「だが、愛人のデートというのがどうもよくわからない。

 普通のデートしか検索しても出てこないし。

 

 リラクセーションルームの雑誌にも載ってない。

 

 サスペンスとかだと、殺されたり犯人になったりする愛人と男は大抵、お忍びで旅行に行ってるから、今度、旅行にでも行くか。

 

 まあ、今、なかなか休めないんだが」

 

 ……休めなくてよかった、と唯由は思っていた。

 

「ともかく、いずれ、お前を愛人として親族に紹介したい」

 

「いや、なんでですか」

 

「それをしないと意味ないだろう。

 俺の女性関係が乱れていることを示すためにお前を雇ってるわけだから」

 

 雇われてはないかと思いますね~。

 

……近々、お前のお披露目をせねばな」

 

 そんなお披露目、嫌ですし。

 

 愛人をわざわざ親族に紹介してお披露目するようなきちんとした人は、女性関係は乱れてない、と判断されると思いますね、と唯由は思っていた。

「お前の親兄弟に挨拶しなくていいだろうか」

 

……絶対にしなくていいと思いますね」

 

 きちんと育てられすぎて、乱れられないようだ……

 

「コーラ、もう一杯いかがですか?」

と唯由は立ち上がる。

 

 

 

 

「さて、めでたく愛人関係になった俺たちだが」

 

 愛人って、『愛人にするぞ』『そうですか』と言い合っただけでなれるものなんですかね?

 

 お互いのことをまだよく知らないし。

 

 頬にキスした程度なのに。

 

 いや、それ以上のことをされても困るんだが……と唯由が思ったとき、蓮太郎が言ってきた。

 

「此処らで少し、お互いのことを知り合うべきなんじゃないだろうか」

 

 ……王様がずいぶんまともなことを、と思う間もなく、蓮太郎は、

 

「蓮形寺、スマホを貸せ」

と言う。「いや、何故ですか」

 

「別にお前の秘密を探ろうとか、プライベートにズカズカ踏み込もうというわけではない」

 

 それはありがたいですが。

 

 愛人の秘密を放置し、プライベートはどうでもいいって言うのも問題あるような……

と思い見つめる唯由に、蓮太郎は言う。

 

「リラクゼーションルームの雑誌に書いてあったんだ。

 スマホの予測変換でその人間の人となりがわかると」

 

「あー、まあ、よく使う単語はわかりますよね」

 

 いいですよ、と唯由はロックを外し、スマホを渡した。

 

……あっさりだな」

 

「人に見られても特になにもないので。

 

 私もちょっと興味ありますしね。

 自分のスマホの予測変換。

 

 注意して見たことないので」「そうか。

 ああ、先にお前のを見たら悪いな。

 

 俺のを見せてやろう」

 

「結構です」

 

「何故だ。

 見せてやろう」

 

「結構です」

 

「俺に興味がないのか」

 

「結構です」

 

 見せてやる、と望んでもいないのに、蓮太郎はスマホで予測変換を見せてくれる。

 

 だが、仕事で思いついたことをメモに書き溜めているらしく。

 

 そのせいか、仕事関係の小難しい単語ばかり候補に出てくる。

 

……面白くないです」

 

 スマホの画面を見ながら、唯由は眉をひそめた。

 

「俺という人間が面白くないと言うのかっ」

 

「いや、スマホの変換がですよ」

 

 っていうか、意外に真面目な人なんだな、というのはよくわかりました、と唯由は思っていた。

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