すぐさま側近に命令を伝えると、待機している数百の親衛兵を出撃させる。道を空けるように先ぶれを出すと、暗夜なので歩兵を選りすぐり、守備兵の後ろに待機させた。
号令で戦列に隙間が出来る、同時に重装備の歩兵が一気に進出した。いままで守りで精一杯だた蜀が、突然押し返してきた。たまらず魏兵は味方のところへと逃げて行ってしまう。だが取り残された魏兵がいて、降伏した数人を捕虜に取る。 どれだけ勝っている戦でも捕虜は必ず出る、何せこれだけの大人数が入り乱れているから。そしてその捕虜こそが最大の情報源であった。部下から耳打ちされた陸司馬が頷いて目の前に歩み寄る。
「ご領主様、捕らえた魏兵によれば、international school in hk 張遼将軍率いる南軍がもうすぐ増援に来るとのことです」
「だろうな、五万で済めばよいが、あの名将のことだそうはいかんな」
最低限の守備兵だけを残して速攻で終わらせに来るならば、それこそ十万をかき集めて来るぞ。この遠征軍さえ叩き潰せば数年は安全が保てるからな!
「……もし脱出なさるならば、我等中県の兵、どれだけ汚名を着ようとご領主様に従い必ずや蜀へお連れ致します」
真剣にこちらを見詰める。生きてさえいれば好転が望めるかも知れない、魏が割れて万が一が訪れるかも知れない。死んでしまえば全てお終い、生き残った者こそが勝者、敗戦の屈辱は悪ではない。だが。
「ここで逃げるようならば最初から出てなどこんよ。俺は決めているんだ、前進か死かと」
「ははっ! 何なりとご命令下さい!」
こいつらには生き残ってもらいたい、単純に幸せに暮らして欲しいと感じている。そんなことを望んでいるかはわからないが、たったそれだけがこうも遠い世界ばかりだ、古今東西未だに理想郷は存在しないな。
急に外が騒がしくなる、元からうるさいのは間違いないが、どこかで戦況が動いたのだろう。程なくして伝令が駆け込んできた。「申し上げます、河の南より魏軍が大挙して押し寄せてきました!」
「架橋は妨げているが」
「暗くなってから上流で河をかなりせき止めて、胸程まで水につかり歩いてです!」
「陸司馬、総予備で増援だ、押し返せ!」
直ぐに兵を引き連れて陸司馬自らが出撃して行った、こういうときは統括できる地位の人物が現場にいるのが極めて効果的。しかし河をせき止めるだと、開いた口が塞がらん類の話だ。そうはいっても幅が五十メートルくらいならば一日で出来るか、すぐに溢れるだろうがそれまでに橋頭保を確保出来ていたらいいんだからな!
急に空が揺らめき出す、北東で大量の火矢が使われたようで互いの顔が暗闇で解る位の光量が発生する。なぜそんなことをするかは簡単な話だ。今度は東側から強烈な攻撃圧力を受けた、寝ていた兵が驚いて飛び起きる。
暗夜の乱戦模様、飛び道具は使えない、味方に当たると大被害になるから。本部でじっと待つしか出来ない、それぞれが最善を尽くすと信じて。後退や敵発見の報告ばかりが続く、籠城してからずっと体力を減らし続けていたせいで動きが鈍い。 こいつはいかんぞ、朝まで持つかが微妙だ! 渋い表情のまま拳を握りしめて報告を聞き続ける。東側からの戦闘が徐々に近づいてきているのが感じられる。司令部が戦闘を始めたらもう敗北とみて間違いない。
夜が明けようとしている、うっすらと互いの表情が見えて来た。
「どうした!」