、おれたちを助けてくれている俊冬と俊春だ」
副長は、俊春の注意をひいてから紹介する。
「餓鬼どもは、二人が大好きでな。おれたちより懐いちまってる。しかも、おれたちのいいつけよりもよくききやがる」
「泰助が、二人のことをずーっと話つづけていた。ゆえに、二人以外の話をきかせてくれと申したが、「さあ」と答えるではないか。笑ってしまった。叔父のことすら、話せぬとは」
松五郎が、苦笑しつつ語る。
とくに泰助は、肺癌症状 双子にべったりである。双子のことばかり話すとは、じつにかれらしいと思う。
それはなにも、亡くなった叔父のことをないがしろにしているわけではない。亡くなった叔父のことは、おいおい語るはず。いまはまだ、語るには悲しみのほうがおおきいのであろう。
「為次郎、どうした?」
副長は、無言でいる為次郎の腕に掌をかけて問う。
「ああ、すまぬ。なんでもない。「バラガキ」とだったら、どっちが強いのかと思ってな」
思わず、ふきだしてしまう。
「歳は目録です。二人は、皆伝です」
「いや、近藤さん。それ以前の問題だろう?「天然理心流」目録にあるまじき汚いをつかっても、到底勝てやしない。剣術でも喧嘩でも、ついでに高尚な趣味でも、この兄弟に勝てっこない。なぁ?」
永倉は、みなをみまわす。副長には申し訳ないが、正論なので無言でうなずいておく。
「ちっ、なんで高尚な趣味ってところまで取沙汰しやがる?」
副長はクレームをつけるが、双子なら「異世界転生」で俳人として全国行脚しているはず。当然、句作も玄人以上にやってのけるにちがいない。「皆伝?流派は?」
「佐藤様、われらはあちらこちらの流派を盗みみては遣っております。元の流派は、名のれぬほど穢しております」
佐藤の問いに、俊冬はそのように応じる。
「柳生新陰流」とは、すすんでいいたくないのであろう。
「真剣でやるのか?二対一で、おれが胸をかしてやってもよかったがな」
ごまかすかのように、おちゃらける副長。
「副長、このつぎにおかりすることにします・・・。局長、本来なら、子どもたちに剣術の愉しさをみせたきところでございますが・・・。あたらしく加わってくださっている皆様に、誠ののやりとりをおみせしたく」
俊冬は副長のジョークに如才なく応じてから、意外なことを申しでる。
かれにしては、めずらしい。兄の横顔をみつめている俊春のが、ますますかたくなる。
局長と副長が、をみあわせる。
「いっさい、手を抜くな。ついてきたくば、わたしを殺るつもりでこい」
俊冬はを局長と副長に向けたまま、口の形だけで弟に告げる。
たしかに、そうよみとれた。おれだけでなく、みな、それをよみとった。どのにも、驚愕の表情が浮かぶ。
ただ一人、それを告げられた当人は、無言のままを伏せてしまう。
「なにをしている、弱虫め。さっさとまいれ」
俊冬の挑発。かれが立ち上がると、俊春もそれにならう。局長たちに同時に頭を下げ、それから神棚にも一礼し、道場の中央に向かう。
「また、鍛錬か?それにしては、様子がおかしいよな」
「ああ。俊冬は怒っているみたいだし、俊春は怯えている感じだ」
永倉と原田が小声で話している。斎藤も島田も、不安なを送っている。
局長と副長もまた・・・。
やはり、さきほどのことなのか・・・。それにしては、俊冬の怒りの沸点が高いのが気にかかる。
「みな、こちらへきなさい」
局長は、向こうのほうでみている子どもらを手招きする。特等席でみせてやろうというよりかは、子どもらが怯える展開にでもなったら、すぐにフォローできるようにであろう。
外からのぞいている人々もあわせて、何人くらいの観客がいるであろう。のぶさんやみつさん、泰助の母親ら女性陣も、道場内にははいらずに外からみている。
遠間の位置で対峙する双子。弟を睨みつけ、マウンティングする俊冬。俊春は、いじめられっ子のようにうつむいている。
いつもとはちがう空気。めずらしく、俊冬から気を感じる。しかも、攻撃的な気を。
さきに俊冬が一礼する。あわてて一礼する俊春。
道場内が緊張に包まれている。
入口のほうをみると、そのすぐ外でお座りしている相棒が、じっと双子をみつめている。