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「公孫範につきましては

「公孫範につきましては、少なくとも明日にならねば耳に入らぬでしょう。このように日が傾いて来ておりますので」

 

 空を見上げると夕方に足を突っ込んでいる、とはいえ残暑厳しい季節だ、五時や六時くらいなんだろうな。真冬なら五時はもう夜になっているぞ。

 

「それと、月經不適 計画の全貌につきましてもやはり全てを見通すとはならないでしょう」

 

「それは何故だ、あちらにだって有能な者はいるだろう」

 

「こちらには頭脳が四か所にありますが、知った頃にはまた手遅れ。そして次の一手が進んでおりますので」

 

 なるほど、通信機器が無い時代だ、距離的制限がある以上は現在進行形で複数を同時にやられては手も足も出ん。郭嘉のことだけでなく、沮授や田豊も信頼しているわけだな。そいつは結構だ。

 

「こういう時、総大将としては目の前の戦だけを気にかけているだけでは失格だな。袁紹の動きはどうなっている」

 

 結局のところあいつが一番の勢力になるだろう未来があるんだ、いや過去か? まあいい、何もせずに黙っているはずがないんだよ。渤海太守に戻り真面目に働けば、あっという間に上に行くだろうに。正道を積み重ねるのは悪いことではないぞ。

 

「しきりに公孫賛の動きを煽り、冀州殿に牧を譲るように働きかけをしているようで。趙浮殿と張楊殿が身辺を守り、閔純殿、耿武殿らが諫めているので今のところはその気配は御座いません」

 

 兵糧不足でおいそれと軍勢を右に左にともいかずか、陳留の張邈が提供しているんだろうか。そこから少しでも余裕が出れば、隙を衝いてどこかを攻める位はしそうだ。

 

「袁紹の頭脳というと」

「南陽の同胞、逢紀殿と許攸殿でありましょう。おっと公則を忘れては愚痴を言われてしまいますな」

 

 公則というと、あー……郭図だったか。潁川グループの人材、深いところで繋がっていて当たり障りが無い情報は敵味方でも共有されているとみていいな。最悪離脱する際には、詳細な情報を与えて命を助けるということもあるだろう、それについて文句を言う筋合いはない。

 

「決戦が起こるなりしてどこかで均衡が大きく崩れたら、その時態度を決めて動きを定める。そんな流れになるかもな」

 

「時は袁紹殿に有利には働きますまいが、こちらも長くはないので恐らくは」

 

 秋の口には決着をつけているはずだからな、一か月で全てを決める。全軍上げて逃げて行かれたとしても、俺の役目は終わりにする。

 

「そういえば曹操らはどうしている。近くにいるはずだが」

 

 陳留に一緒にいるような気もするし、少しだけ別働しているような気もする。曹操こそ何かしないわけにはいかんのだからな、あれだけの人材を抱えているんだ、城の一つや二つは直ぐに手に入れるだろう。

 

「東郡に出没している賊を相手に戦いをしているようで」

 

「ということは冀州のすぐ傍に居るんだな。こちらの輸送隊が襲われなくなるなら大歓迎だよ、少し詳しく調べておいてくれ」

 

「畏まりました」

 

 戦って賊から奪って養う、その上で冀州に軍糧を要請するならば受け取りも出来るだろう。冀州も嬉しい、曹操も助かる、俺もそれなら納得ということなら、の関係というのがこれだな。

 

「沮授のところ、広川を落とすのにどれくらいかかるだろうか?」「かの御仁であれば、三日あれば手にしているでしょう。即ち今頃はもう」

 

 そんなものかね。こちらの陽動は成った、騎兵も叩いた、城を落とせていなかったにしても取り敢えずは満足いく結果は上げているぞ。

 

「そうか。ではさっさと退くとしよう、目的を果たしなら軍事行動は速やかに終結させるものだ」

 

「でしたら今宵に撤退致しましょう」

 

 余裕の笑みを浮かべてそういうが、どうやってというのに言及すべきか? いや、こいつがすると言っているんだからするんだろう。自分を信じて仲間を信じろ、これだ。

 

「撤退指揮は任せる。俺もうまいこと使えよ」

 

 暗くなると公孫賛軍は二キロほど北へ退いていった。簡単な陣を設営していて、そこに籠もっている感じだ。何もない平地で寝泊まりするほど危険なことはないからな。さて荀攸はどうやってこの兵を撤退させるのやら。

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