「わかった、自称でしかないがそうするとしよう」
「ご心配されませんように。黄門侍郎の公達殿に上奏を起こしていただいておりますれば、都に使者が到着次第正式な任官になる見通しで御座いますので」
ああ、お前はそれを書いていたわけか。荀攸殿が中で一番高官だものな、そういうことだったか。これが正式なやり方というならば俺はそれに従うよ。
「そうか。長吏は地元から出し 事後 避孕 藥 ても構わんのか?」
「構いません、ご指名が御座いますか」
あると知っていてこちらに任せたか、誰が一番の適任かは皆が知っているな。事実上の太守だが、本籍地ではなれない決まりだからな。
「迷惑でなければ荀悦殿を指名したいのだが、支えてくれるだろうか」
納得の空気が流れる、そりゃそうだよな。だがずっと郷に籠もっていて表には出てこなかったらしいし、拒否されてもおかしくはない。学者として一生を過ごしたいならばそれを認めるさ、もうそれだけの役目は果たしてくれたからな。
「されば一年だけで宜しければお受けいたしましょう。その後は書を認めたく思います」
「うむ! では頼むとする。書とは?」
こいつは何を研究しているんだ、聞いても全く理解出来ないんだろうがね。
「漢の歴史や政治体形、言語や風俗について綴りたく」
「おお、それは面白そうだな! 俺も是非読んでみたい、あまり長いと読みづらいし、難しい言葉を使われてもな、簡単に読めて理解は出来ずとも納得しやすい何かになれば嬉しいが」
辞書のような書き方が多くて、殆どのことは軍師なり参軍なりに尋ねて、言葉にしてもらって判断していたんだよ。知らない何かを読んで感じられるならよろしい。
「なるほど、興味あるものは読み進めるだろうと考えておりましたが、そのような考えも御座いましたか。著書を編纂する際に参考にさせていただきます」
「うむ、後の楽しみが出来た。ああ、みなすまんな話の腰を折ったようになってしまった。俺は統治はしても行政業務も司法業務も疎い、長吏に任せるゆえ報告は荀悦殿にするように頼むぞ」
細かいことをせずに前も軍事と外交というか政治全般だけをみていたからな。ここでもそれで通るような規模かはわからんが、出来ないことをやろうとすればひずみが産まれる。全権委任できる相手が居るならそうしたほうが多くが幸せだろう。
「我が君、陳郡の取り扱いについても方針を下知いただけますでしょうか」
「それだが荀諶殿がとりまとめを出来ないだろうか?」
座っている先を目で追って様子を窺う。驚きはしていないが、喜びもないか。荀攸の存在があるからだろうな。
「友若殿、いかがでありましょうか」 荀諶は立ち上がると一礼する。
「お言葉、誠にありがたく、身に余る思いで御座います。されど某よりも適任者が幾人も居りますれば、その方を採り上げるよう伏してお願い申し上げます」
陳紀は老年だから外すとして、荀彧の事も含んでいるのかも知れんな。あとは甘寧あたりも一応入れてるのかもな。
「俺は今の状態は一つの通過点でしかないと考えている。いずれ董卓を打倒し、皇帝をあるべき姿に戻すその日まで、戦いは終わらない。その為に必要な措置なんだ、想いがあるのは解っている、だがこれも国家の為だ。引き受けてはもらえないだろうか」
じっと荀諶を見詰める。誰でも良いわけがない、適任だから指名している。贔屓だと言われても荀氏を登用するのをやめはしないぞ。居住まいを正し、拱手すると深く腰を折る。
「そのように仰られるのでありましたら、微力では御座いますが、謹んでお役目をお受けいたします」
「ありがとう荀諶殿。軍を編制し陳郡へ差し向ける、準備が出来次第赴任するつもりでいて貰いたい」
これで地盤固めは進むはずだ、大問題が城外に滞在しているわけだがね。荀彧に視線を向けると、こちらが何を懸念しているのかを察したようだった。
「一か月ほど待てば、そのお悩みは氷解することでありましょう」
「なんと俺は予言者を傍に置いていたとはな」
「これは予言などではなく、必然というもの。どうぞご心配なく」
うちの部将らは難しい顔をしているが、荀氏らは涼しい顔をしているのが、どうにも器の違いを思い知らされたよ。