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「…君が栄太の想い人か

「…君が栄太の想い人か。座ってくれ。俺は久坂玄瑞という。栄太とは松下村塾で共に学んだ仲じゃ。こっちの大男は…」

 

「…入江九一じゃ。よろしゅう」

 

 

促されると、https://plaza.rakuten.co.jp/aisha1579/diary/202301070000/ 桜花は刀を右側に置き二人の前で正座をした。

久坂は見定めるように、入江は値踏みをするように桜花を見詰める。

 

それに圧倒されながらも、桜花は拳を軽く握ると二人をしっかりと見据えた。これで怖気付いて、吉田に恥をかかせる訳にはいかないと思ったのだ。

 

 

「鈴木桜花と申します。訳あって男性の格好をしていますが、女です」

 

 

急に凛とした居住まいになり、おどおどとした空気を一変させた桜花を見て、二人は目を見張る。

 

なんて女だ、と久坂は思った。

男装のことは吉田から聞いていたため、さして驚くことは無い。

しかし垢抜けない田舎女かと思いきや、その立ち振る舞いの節々には聡明さと強さを感じさせる。そしてまるでこの世の女とは思えない程の儚さすら秘めている。

 

そして、恐らくかなりの使い手だろう。刀が似合う女などこの世にいるとは思わなかった。日ノ本広しとは言え、まだまだこの世には知らないことが多い。

 

 

「御足労じゃったな。死ぬ前にどねぇしても一目見とうなってしもうて。出向くんが礼儀じゃたぁ思うたが、来てもろうてしもうた」

 

 

久坂はそう言うと、ニカッと笑う。その笑みは見ている者の警戒を解いた。

 

「ちいと待て、久坂。ワシはまだ混乱しちょる。此奴は真に女子なんか?栄太郎は騙されちょらんか?」

 

「そねぇな事を言うても…。女子の装いに着替えてきて貰うか?」

 

入江の言葉に、久坂は桜花を一瞥する。

桜花はその視線を受け、静かに首を横に振った。「…私、女の姿をまだ吉田さんにも見せていないんです。だから、それを受けることは出来ません」

 

 

その言葉を聞いた二人は視線を合わせる。操を立てるようなそれに久坂は少し嬉しそうに口角を上げた。

 

「そうじゃったか。そりゃ無理強いをすりゃあ、栄太に怒られそうじゃのう」

 

入江は何処か面白そうに目を細める。

 

「ほう…。ならば、どねぇして栄太は君が女子じゃと分かったんじゃ?」

 

「え……。それは、その…」

 

 

その質問に、桜花の顔はみるみる赤くなっていった。脳裏には事故で押し倒された時の光景が浮かぶ。

 

照れながらも柔らかで愛しげな表情はまさに恋をする女子のそれで、男の をしていても女子だと分かる程だった。

 

「…前言撤回じゃ。ワシにも分かった気がするのう」

 

 

そう言うと、入江は口元を緩める。

そして悲しげに、哀れむように目を細めた。

 

「こねぇな美人を置いて死ぬるなぞ、栄太郎も罪じゃのう。…まだまだこれからの男じゃった。惜しゅうてならん。君も辛いじゃろうて。恨み言の一つでも言いたくなるじゃろう」

 

 

入江の言葉に、桜花は悲しみがたちまち込み上げてくるのをグッと堪える。どれだけの月日が経とうとも、この胸の痛みは一生忘れることはない。

しかし、ここでうらぶれた姿を晒すことを吉田ならば良しとしないだろう。

桜花はそう思うと薄く笑みを浮かべた。

声が震えてしまわないように、深く息を吸う。

 

 

「吉田さんは…。その時の死力を尽くし、最期まで…仲間を守ろうとし、武士として殉じたと聞いております。私は…そんな彼を誇りに思います。なので、恨み言など申せません」

 

 

その堂々たる発言はまるで高貴な武家の妻のようで、二人は息を呑んだ。それでも気丈に振る舞う姿の節々には深い悲しみが見え隠れしており、不憫にも見える。

 

 

「…たまげたものじゃ。栄太はええ女子を見付けたのう!そねぇなことを言われたら、栄太も嬉しいじゃろう。冥土の土産になった」

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コメント

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