少し頭を冷やそうと歩いて来た道から反れて違う道へ行ってしまった。
鴨川の河音を聞けば少しは落ち着くんじゃないか。鴨川からなら藩邸に帰る道も分かる。
そう思って歩いていた。
「…………探したぜ。三津。」
背後からの声に一瞬で全身に鳥肌が立つ。地を這うような低い声。背を向けているがその人物は片口を釣り上げ不敵に笑っているのが容易に想像出来た。
小さく体を震わせながらゆっくり……ゆっくり……。振り返った。
一番会ってはならない人物がそこに居た。顯赫植髮
震える足で一歩……二歩……と後退り,提灯を手から離し着物の裾を持ち上げて走った。
「逃げられる訳ねぇだろ。」
土方も持っていた提灯を投げ捨て後を追う。
だがすぐには捕まえなかった。ある程度三津を走らせ,ここだと言う場所に差し掛かった時に腕を掴んで捕まえた。
「やっ!離して!」
激しく抵抗する三津を鴨川の茂みに引きずり込んだ。
「勝手に姿消すんじゃねぇよ。お前の主は俺だろ?」
三津を押し倒して両肩を抑えつけた。不敵に笑うその目が怖くて体を震わせ硬直した。
「何で桂と一緒に居る。お前はアイツに惚れてんのか?ん?」
片手で顎を持たれて目を逸らすことも許されない。目に涙を溜めて土方を見上げる事しか出来なかった。
「……無言は肯定と取るぞ。答えろっ!!」
恐怖に震え瞳を揺らし,三津は小さく頷いた。
それを見た土方の目は大きく見開かれた。その目に射抜かれ涙が溢れだす。
「肯定……すんじゃねぇ……!」
苦しげに声を絞り出した土方は三津の顔を両手で挟むと激しく唇を貪った。
「んっ……!やっ……!だっ!」
そこから首筋にも舌を這わせた。
片膝を立てて必死に地面を蹴って逃れようとする三津を簡単にねじ伏せ胸元を露わにした。
「やっ!やめっ……!土方さんっ!」
どんな抵抗もこの力の前では無駄で,立てた片膝は持ち上げられ体が割り込んで来た。
「なん……で……や……やめっ……!」
その声も届かず土方の侵入を感じた時,声にならない悲鳴を上げた。幾松にしがみつかれながらも三津を追おうとしている所に手水へ行こうとした乃美が出て来た。
「乃美さん!三津を追って下さい!一人で出てしまった!」
流石に乃美の前で醜態は見せられないと幾松は身を剥したがそれでも腕は離さなかった。
「な!?追えんのなら早く呼ばんか馬鹿者!後は何とかしとけよ!」
乃美は二人を睨むとすぐに旅籠を飛び出した。
桂は大きな溜息をついた。やはり連れてくるべきではなかった。
自分の判断が間違っていたと責めずにはいられない。
「私かて大事にされたい……。もっと傍におりたい……。」
潤んだ目で見上げるも見つめてはもらえなかった。
「すまない。許してくれなくていい。
三津じゃなきゃ駄目なんだ。」
宮部を一人にしておく訳にもいかず気が気じゃないまま部屋に戻った。
三津の足ならきっと追いつける。乃美は来た道を急いで戻る。
だが藩邸に着くまでに三津の姿はなかった。
「乃美さん一人でお戻りですか?」
てっきり三津が帰って来たと思った吉田は拍子抜けした顔で乃美を出迎えた。
「三津さんは帰ってないか?」
肩で息をしながら吉田に詰め寄る。
「いえ?
まさか一人で帰ろうとしたんですか!?」
「あぁそのまさかだ。」
「探しに出ます。」
嫌な予感しかしない。吉田もすぐに藩邸を出た。
どれぐらい陵辱されただろう。
枯れるほど涙を流した焦点の合わない目の前は真っ暗闇。
下腹部に生々しい痛みが残る。
「何でアイツなんだ……。」
そう問われて虚ろな目に土方を映す。