あれ以降、俊冬は表立ってはフツーに接しているし話をしている。
が、あきらかになにかがちがう。
それが「なにか」?ときかれれば、正直なところ「なにか」はわからない。
それは、島田と蟻通も感じているようである。
両人ともに、衛衣 おれに説明を求めるような熱いを向けてきたが、副長に口止めされているのでいえるわけもない。
スルーしておいた。
そして、いよいよ第二次二股口攻防戦の日がやってきた。
この日も、朝からシトシトと雨が降っている。
まるで梅雨である。
たしか北海道って梅雨がなかったはず。
低気圧が居座っているのかもしれない。
「史実では、明後日の朝までつづきます」
最後の打ち合わせである。フランス軍の士官たちや衝鋒隊と伝習隊の士官たちがやってくる前に、副長たちに伝えた。
しょぼいレインコートをつたって雨水がを濡らし、シャツの中に侵入してくる。
「明後日の朝まで?」
副長と島田と蟻通と安富が、声をそろえていった。
今回は、安富も参加している。お馬さんたちは、安全なところで伝習隊の歩卒にみてもらっている。
その気の毒な歩卒二人もまた、お馬さんたちのあつかいについて安富のレクチャーを受けなければならなかった。
「この雨のなかを?」
「蟻通先生、もしかすると雨はやむか小降りになるかもしれません。史実では、熱した銃身を水で冷やしながら撃ちつづけて応戦したそうです。だから、雨は止む可能性が高いです。かりに雨が止まなかったとすれば、雨の水だけでは追いつかないほど戦いが激しくなるというわけです」
「いずれにせよ、水も準備万端だ」
「ああ、土方さん。もっとも、準備したのはわたしたちだがな」
おれが史実を伝えると、副長がぬけぬけしゃーしゃーといった。その副長に、蟻通がソッコーで嫌味を炸裂させる。
「と、主計がいっている」
「って、またしても。蟻通先生っ」
おれが蟻通にクレームをつけると、副長が笑いだした。
もちろんすぐに伝染する。
ひとしきり笑った後、ほかの隊の士官たちがやってきた。
そこで最後の打ち合わせがおこなわれたのであるが、伝習隊の士官隊の隊長の一人であるらがムダに熱い。
かれは、たしかまだにもなっていないかと記憶している。
鼻っ柱の強そうなである。
銃撃するだけでなく、突っ込ませろと副長に迫りだした。それを、おなじ伝習隊の歩兵隊隊長であるがたしなめる。
大川も若い。だが、ずいぶんと落ち着いている。たしか、大鳥の頭脳的役割を担っているはずである。
二人は、ついに口論をはじめてしまった。
「やめぬか。兎に角、敵軍に突撃するか否かは、そのときどきの状況による。そのときには指示をだす。くれぐれも勝手な判断や行動をするな」
副長が仲裁に入ると、滝川は舌打ちをして持ち場に戻っていった。大川は同僚の非礼を詫び、それから一礼して去っていった。
「副長。史実では、滝川君が部下を率いて敵の軍艦さん率いる部隊を蹴散らします。が、多くの部下を死なせてしまいます」
「なるほどな。ったく、伝習隊の若造にふりまわされたくはないが、戦死者はできるだけだしたくない」
「承知いたしました。おれかわんこがどうにかします」
副長の言葉に、俊冬がその意をくんですぐに応じた。
そこのところは、さすがとしかいいようがない。
「いまのをみれば、どうせ勝手に突撃するんだろうな」
「その可能性は高いですよね」
島田の推測に、一つうなずいて同意する。
「駒井さんたちを蹴散らしたはいいが、多くの戦死者をだしたことで、大川君がかれを責めるんです。そのとき、副長が「大川の理、滝川の勇」と、どちらも讃えて仲裁するらしいです」
「さすがはおれだ。うまいこというじゃないか……」
「ふんっ!いま、主計が申した受け売りではないか」
自画自賛した副長にかぶせ、安富がそういって嘲笑った。
「な、なんだと、才助?」
「と、主計が思っておる」
「って、安富先生まで。いったいなんなんですか?」
また副長が笑いだした。
俊冬が、フランス軍士官たちにトランスレイトしたようだ。かれらも笑っている。
戦のまえの緊張と不安が、軽減されたかもしれない。
それから、おれたちも配置についた。
すごい。おれの予測があたった。
敵の部隊が、俊冬と相棒の索敵センサーにひっかっかった。
ほぼそのタイミングで、シトシト降りつづけていた雨がやんだのである。
とはいえ、雲が垂れこめている。いつまた降りはじめてもおかしくない。